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律は頷き、私の手を握った。まるで恋人同士がするかのように絡められる指。いつものスキンシップ。細く滑らかな指先は、凍えそうなほど冷たかった。心停止する手前みたいに。
私から熱を奪おうとするかのように、冷たい指はぴったりとくっついてくる。
「付き合ってるの? そのひとと」
「ううん」
「相手から誘ってきたの?」
「うん。今日、みんなでお昼食べてるときにね。びっくりした」
ねっとりと絡みつき、指と指のあいだの股をなぞる彼の指先に、なんだか気持ちが落ち着かなくて、それを紛らわせるように私はいつもよりもたくさん自分から話をした。
そのひとは同じ大学の友人であること。短い髪に黒縁の眼鏡をかけて、いつもボタン付きのシャツを着ていること。背中が大きくて、九分丈のパンツからのぞく足首がきゅっと引き締まっていたこと。いつも落ち着いていて、大人びた雰囲気をまとっていること。「麻乃ちゃん」と呼ぶ低い声。静かな瞳。
夢中で話すあいだ、律はずっと同じ微笑を美しい顔に貼りつけたまま、やっぱり私の指の輪郭を執拗なほどになぞっていた。
クリスマスを一緒に過ごすことが決まってから、私と柿谷くんは毎日のようにメッセージのやりとりを続けた。律には友人と言ったけれど、実際私たちは大きな友人グループのなかでお互い逆側の端と端にいるような、限りなく「知人」と呼ぶほうがふさわしい間柄だったのに、一足飛びに恋人未満になったかのようで、私は胸を踊らせた。
彼は文面でも落ち着いていて、いっそう心惹かれた。
そして、24日、当日。
一緒に大学をでて、イルミネーションを見に行って、混んでて全然見えなかったねって笑いあいながら夕食をとって、外灯がちかちか点滅する夜道をゆっくりと歩きながら、私と彼は恋人になった。
律からのクリスマスプレゼントは、小さな宝石がついたアンクレットだった。ブランドに疎い私でも名前を知っている高級店のロゴが入った箱とリボン。
気持ちは嬉しいけれど、こんなに高価なものはもらえない、と断ろうとしたら、
「昔のあさちゃんは素直に受けとってくれたのに」
と返され、後ろめたさを感じながらもやっぱり受けとった。
私は律の家に招かれ、彼の部屋で過ごしていた。
「つけたところ、見せてよ」
そう言われたので、履いていた黒いタイツのうえから装着してみる。
でも律は不服そうに唇を尖らせ、
「下、脱いでよ」
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