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私の腰に手を伸ばしてきたので、慌てて逃れた。幼少の頃から知っている幼馴染みと言っても、幾らなんでもやり過ぎだ。
私は部屋をでてトイレに駆け込む。指示どおりにタイツを脱ぎ、また戻る。
厚手のタイツだったから、脱いで足を晒すと頼りなくて落ち着かない。律が露わになった足をじっと見ているのも、落ち着かない。
舐めるような視線に居心地の悪さを感じながら、さっさと終わらせてしまおうと、裸の足首にもう一度アンクレットを巻く。透明な宝石が照明の光を反射してきらきらと輝いていた。
「似合うね。よかった」
その輝きに満足そうに目を細める律。そして。
「もっと見せて」
と。甘い声とともに、私はベッドに沈んだ。
押し倒されたのだと、すぐには気づけなかった。
そのくらい、私にとっては突然で、逃げる暇も冗談にする隙もなかった。
倒れたはずみで膝丈のスカートがめくれ、太腿の大半が露わになる。アンクレットをつけた足首を男の手が掴む。
そこでやっと私は状況を把握し、
「っや、律、やめ、」
スカートの裾を押さえながら、逃れようとする、けれど男の力には敵うはずもなく、逆に拘束を強くされる。
男。
そうだ、律は柿谷くんと同い年の大人の男性なのだと、当たり前のことに突然気付かされた。
息を呑む。
足首が持ち上げられ、そこにうつくしい顔が寄せられる。
やわらかな感触が剥き出しの肌に触れ、律の唇がそこを這っているのだと、一拍遅れて理解した。
口づけが落ちてくる。アンクレットのある場所から、上へ上へ。
触れられたところが順々に、火がついたように熱くなっていく。その熱は顔へ、身体の奥の奥へ、飛び火して、すぐに全身を火照らせる。
わざとらしい唇の音が広い部屋の壁と天井を跳ね返って、耳に届くと、さらに熱は上がる。
私は震えながら、怯えながら、その様子を見詰めた。
本当は、ふり払おうとすればできるのかもしれなかった。でもなにもできず、ただ、おそるおそる彼の名を呼んだ。
彼は笑った。見たことのない酷薄さで。泣きたいくらいの凄艶さで。
「だめじゃん。彼氏、できたんでしょ。なんでされるがままになってんの」
笑いながら、足を解放し、代わりに私の両手首を掴み、シーツに縫い付ける。
天井から吊るされた照明の光を背に受けて、私のうえに彼の影が横たわる。大きくて黒い影。
「なんで、とか、思ってるの? 怖いの? それとも、おびえたふりして本当は、期待してる?」
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