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頬に落とされる軽いキス。いつものスキンシップ。ではない。ほとんど同じで、絶対的に異なる、それ。
律の目に映る私はどんな表情をしているのだろう。私の目に映る律は、知らない男の顔をしていた。知らない顔で笑う男が、そこにいた。
そのひとは、骨から溶けてぐずぐずに崩れてしまいそうなほど甘く蕩けた声で、囁く。
「ああ。ほんとはね、麻乃が思い出したあとにって考えてたんだ。なんで忘れちゃったの? 離れ離れになるまえ、いつか、約束したよね。『はたちになったら恋人になろう』って」
その囁きはいつもと何ら変わらない口調なのに、あまりにも官能的に。毒々しく。
「当時はお互い、『はたち』が何歳のことなのかよくわかってなかったけど。『おとな』は『はたち』からだって知ってたから。『おとな』になったらって意味だった」
まだほんの幼い律と、同じく幼い麻乃の、口約束。
4歳か5歳か6歳か、わからないけれど、小さなふたりを脳内に思い描いて、ぐしゃぐしゃに塗り潰した。
ふいに、首筋を火傷しそうなほど熱い舌が舐めては、歯が立てられる。痛みに堪らず声をあげる私に構わず、彼は続ける。
「だから、はやく『はたち』になりたかった。再会して、想像とは比べ物にならないくらい、綺麗に成長した麻乃を見て、胸を高鳴らせながらずっと待ってた。だって『おとな』にならないと、こういうこと、できないもんね?」
ひろいベッドのうえは、いくら逃げようとしても逃げ場なんてなかった。
そのとき、どんな風に自分が暴かれ、どんな風に乱れたのかはわからない。
一度目は事を急いで無理やりにつながり。
二度目は感触をたしかめるように丁寧につながる。
無理やりに暴かれ晒された身体の全部をたしかめるように、指と舌が隅々まで這い回る。指と舌では届かない奥の奥は、腰を揺らして、ミリ単位で形を捉えるかのように、どこを擦ればどこが震え、どこを突けばどこが響くのかを、ひとつひとつ覚えていくように。
三度は要領を掴んだのか。壊れてしまいそうなほど乱暴に、でもこのうえなく的確に、腰を打ち付けられ、頭のなかの血管や神経がブチブチと切れていく音がした。
視界に火花が散って弾け、赤く染まる。到底逆らえない巨大な波に呑み込まれてしまったようだった。溺れないように必死で男の背を抱き、爪をたてた。男は痛みに顔を一瞬歪め、仕返しとばかりに肩に噛み付いた。
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