20歳

9/12
前へ
/121ページ
次へ
 全身の水という水が、ぜんぶ、涙や汗や愛液になって流れ出ていった気がした。  三度目でやっと満足したのか、疲れ果てたのか、彼は動きをとめてベッドに倒れ込む。 「……あさちゃん」  男と女の、生々しい饐えた匂いが充満するベッドのうえで、無邪気に将来を約束した頃から変わらないその呼び方は、ひどく滑稽にひびいた。  呼び方以外、すべて、変わってしまった。  私と彼の関係のすべてが。  律は、裸の四肢をシーツに投げ出しぼんやりと天井を見上げる私を、ひかりから覆い隠すように被さって。私の肩に残る鮮明な傷跡に、いたわるように触れて。そっと、唇に唇を重ねた。  よく知っていると思っていた律の、はじめて触れる、もっともやわらかな感覚に、もう後戻りできないのだということだけ、はっきりと理解できた。  クリスマスの翌日からの短い冬休み。  年末年始の休暇に入る直前は特に父も忙しく、もはや家に帰ってこない日々が続いた。だから、両親の留守をいいことに、律は私の家に入り浸った。やっぱりつまらない映画を何本も見た。  ただ今までと違うのは、私は律の膝のうえに乗せられ、すきなように全身を弄られ、肌にはいたるところに吸った痕と噛んだ痕がつけられ、四六時中つながったままの足の付け根がもはや感覚を失くしていたことだった。  その状態も過ぎると、今度は、触れられすぎて全身が感覚器官になったかのように、悪戯に触れる彼の手に、唇に、舌先に、肌に、ひとつひとつ敏感に反応するようになっていた。髪の毛の先がほんのわずか肌の表面をすべっただけで肩を揺らし、声をあげた私を、律は満足そうに笑いながら、もう何度目かわからない欲望を吐き出した。律の欲望には果てがないように思えた。  私の身体は私だけのものではなかった。  撃たれるように気づいた。 「あ。そうだったんだ」と呟いた。  麻乃は律のものだったのだ。  18歳で彼に再会した瞬間から。6歳で離れ離れになった瞬間から。あるいはもっと前、きっと、出会った瞬間から。  とっくに、決まっていたのだ。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加