20歳

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 12月30日になって、やっと仕事が片付いた父が帰ってきた。日付が変わろうという時間のこと。久しぶりに会った父はひどく疲れた顔をしていて、けれど私が玄関で出迎えると、小さく笑みをこぼした。 「麻乃。元気だったかい? ずっとひとりにしてごめんな」  私は首を振る。そのとき、背後からもうひとりの声がする。  「おじさん。こんばんは、お邪魔してます」 「……ああ、律くん。来てたのか」  父は私と律を順々に見くらべ、困ったように眉尻を下げた。 「麻乃といっしょにいてくれたのか。ありがとう。でも、もうこんな時間じゃないか。迎えを呼ぼうか?」 「呼んでます。そろそろ来るかと。すみません、遅い時間まで勝手に」  律はいかにも礼儀正しい好青年のように振る舞い、 「じゃあ、あさちゃん。次は年始に会いにくるね。よいお年を」  と、好青年のような爽やかな笑顔を残して、父がつい先ほど入ってきた玄関扉から出ていく。 「……よいお年を」  扉が閉まってから、思い出したように定型句を返した。父はまだ、困惑の表情をしていた。  それは私と律が変わってしまったことに、きっと、気づいてしまったから。  初詣に行こうとか、日帰りで出かけようとか、柿谷くんと約束していた冬休みは驚くほどのはやさで過ぎ去り、その間彼に会うこともなかった。会えるはずがなかった。  私の身体にはおびただしいほどの男の痕跡が残っていて、そうでなくても、恋人同士になった翌日に、恋人ではない男に抱かれた私は。どんな顔をして、柿谷くんのあの落ち着いた静かな目を見たらいいのか。  とにかく、もう恋人なんて名乗れないと思って、別れを告げようとした。  それを阻んだのは、驚くことに、律だった。  冬休みの最終日。年が明けて初出勤だった朱音さんの夕食にあずかった後。  映画はもう見なかった。つまらない映画を見ながら隣同士に座ってただ会話するよりもよほど面白いことを、律は知ってしまった。 「え、なんで別れるの?」  と、理解できないことが発生しているかのような顔をして、しらじらしい科白を吐いたのは、私のなかをゆるゆると掻き回している最中のことだ。  それはどんな遊戯のつもりだったのか。  もはや慣れたように、私の全身を撫で擦って舌を這わせ、もっとも深いところでつながって。そうかと思えば、烈しく動くわけでもなく、どうでもいい話をすることを望んだ。つまらない映画を見ている最中のように。
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