20歳

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 大学の友人から恋人に昇格した彼の話を聞きたがったから、私は彼のことを話す代わりに「もう恋人じゃない」と「明日会ったら別れる」と答えた。  そうしたら、「なんで別れるの?」だ。  無理やりに初体験を奪われても感じなかった怒りが猛烈にこみあげてきた。いや正しくは、あのときは怒りを感じる余裕なんてなかったのだ。  でも、その怒りを感じたところでどうすることもできなかった。  私と律の関係において、私は圧倒的に弱者の側なのだと、いやというほど身体に刻み込まれたのだから。 「せっかくできた彼氏でしょ。別れずに付き合いなよ。応援するから」  と、笑った形の唇のままキスをする。上からも下からも、私の身体は律を受けいれるだけのただの容れものだった。 「もし別れることになったら。それは、おれのせいでしょ。その彼氏に申し訳ないから、謝りにいくよ。××大学法学部の、黒縁眼鏡の柿谷広平くん」  甘い囁きに背筋が凍る。目の前の幼馴染のことが、なにひとつ理解できなかった。 「わかった? 麻乃」  律は苛立ったとき、嘲るとき、命令するときにだけ、私を呼び捨てにする。  可能な限り波風をたてず、平穏を装って一日一日を過ごす。  ファンデルワールス結合の友人グループは、知らぬ間に生まれていたひと組のカップルを大いに祝福してくれた。  柿谷くんと私はいかにも付き合いたての彼氏彼女として、連絡をとり合ったり、休日に出かけたり、たまに手をつないだりした。何も知らない彼の手に触れるたび罪悪感が胸の底に焦げ付いて、それは回数を重ねるごとに厚みを増していき、どんな強力な薬品を使っても落とせないほどかたくこびりついていく。  そして私は、恋人と過ごす時間よりもずっと長く、濃く、爛れた時間を幼馴染と過ごした。  交際をはじめて3か月が経った頃。躊躇いがちに誘われたラブホテルを私は拒んだ。  さらにそこから2か月が経ち、進級して新しい人間関係ができあがった頃。私たちに関する不穏な噂が学部内で広まった。  最初は静かに、しばらくすると急速に。その波は広がって、私と柿谷くんを知るひとたちの全員の耳に届いた。
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