25歳ーⅠ

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 赤羽さんは驚くほどに瞬く間に、社内に馴染んだ。  そしてなぜか、私にも懐いた。  私たちはどちらも早めに出勤するタイプだからか、朝のエレベーターで偶然出くわすことが何度かあり、一度などは1階から34階まで完全にふたりきりだったので、その時はしかたなく、他愛ない会話に興じた。  そして今日も。 「おはようございます、紅谷さん。なんだか最近よく一緒になりますね」 「おはようございます。そういえば、そうですね」 「もしかして同じ電車に乗ってたりして」 「まさか」 「どの辺に住んでるんですか? 俺、埼京線なんですけど、ラッシュ時間の混み具合が本当にひどくて。だから早起きして早い時間の電車に乗ってるものの、それでもめちゃくちゃ人多いから、まあラッシュで圧死するよりましかって感じであきらめてます」 「圧死って」   思わずくすりと笑ってしまう。  前職アパレル、のすごさを赤羽さんと話していると実感する。話がそっけなくて下手な私に対しても、彼はごく自然に楽しげに会話を続けてくれる。彼の問いに対しての、私の当たり障りのない答えに、律儀に頷いて、笑って、さらに言葉を返してくれる。  実際のところ、私との会話を彼が心から楽しんでいるわけではきっとなく、社内で良好な人間関係を保つために、誰に対してもやっている処世術としての会話術なのだろうけれど。  そうだとわかっていても、私は、赤羽さんと話すのが楽しいと感じてしまっていた。  普段、別の同僚相手だったらほとんどしないのに、赤羽さん相手だと、会話を途切れさせるまいと話題を探してしまう。 「赤羽さん、会社には慣れました?」 「おかげさまで。みなさんによくしてもらって助かってます。優しいひとばっかりですよね」  私はそれを肯定できなかった。  会社の人たちがみんな優しく、よくしてくれるのは彼自身の人柄があればこそだろう。誰にだって優しくて面倒見が良い集団なんてありえない。優しくする相手を選ぶのは当たり前のことだ。 「あの、ずっと聞きたかったんですけど、紅谷さんて3年目くらいですか? 実は、同い年くらいなんじゃないかなって気になってて」 「そうです。いま3年目の新卒入社です」 「やっぱり。同級生でしたね」  そう言われて、高校のクラスメイトだった男の子や、大学のゼミで一緒だった男の子を思い出しては、不思議な気持ちになった。  彼らは紛れもなく「男の子」だったのに、目の前の彼を「男の子」と形容することは適切でない気がした。
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