271人が本棚に入れています
本棚に追加
「ま、待ってよー!」
先を歩く翠くんの背中に小走りで追いつくと、隣に並んで歩く。今日はうざいから近寄るなとか言わないんだ、とちらりと横目で翠くんを盗み見ていると、不意にヘーゼル色の瞳が動きあたしを見下ろして、視線が絡み合う。
あ、やばい。
翠くんのこと見てたのバレちった。
今度はどんな毒舌を言われるのかと身構えていると、突然、翠くんが長くて綺麗な指があたしの頬に当ててきて「冷た。」と呟く。
「こんな寒い中、よくそんな薄着で外出ようと思ったね」
「いやー、碧心ん家近いからこれでもいけるかなーって思って」
「あんた馬鹿なの」
この子は本当に息するように暴言を吐くな。
そりゃあ、有名な私立の進学校に通う翠くんに比べたら最底辺のFラン大学通いのあたしなんて馬鹿に見えるでしょうけど。
むっと唇を尖らせていると「これでも付けとけば」と翠くんが自分の付けていたマフラーを外してあたしの首元に巻き付けてくれて、柔軟剤の匂いが、ふんわりと広がった。
「……ありがとう。翠くんはいい子だね。嫌いなあたしにまでこんなに優しくしてくれるなんて」
昔よりはぶっきらぼうになったけど、根は変わらず優しくていい子な翠くんに感心して、マフラーに顔を埋めながら呟くと「は?」と翠くんは麗しいお顔を顰めて、暫く沈黙した後、はぁっとため息を吐く。
「……別に、俺はあんたのこと嫌いだなんて一度も言ってないだろ」
最初のコメントを投稿しよう!