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堀美海という女の子
家の玄関から気合い十分に走り出た美海。
(今出れば、学校に一時間前には着ける!でも、どうしよう。下駄箱?机の中?前日の朝にチョコが入ってたら驚くかな。まずは手紙の内容、見直してからにしないと!何回も見たけど……もっかいは見よう!いや、えと、三回くらいは)
高揚感に包まれて、走り出しては歩いては、また走る。そうして何度も通学カバンを確認しながら駅へと向かう美海。
ふと、まだ空いていない店のショーウィンドウに映る自分の髪型を見て整えた後に、また歩きだそうとして足を止めた。
きょろきょろ。
きょろきょろ。
美海の目に、歩道にお土産などの手荷物を置きながら不安げに周りを見る年老いた男性の姿が飛び込んできたからだ。
手に持ったスマホを操作せずに眺めては、また周りを見渡している。美海は小走りで男性に近寄り、恐る恐る声を掛けた。
「あ、あの……何かお困りですか?」
「ああ……お嬢さん、この辺りには詳しいかい?地下鉄の駅を探してるんだが、迷ってしまってね。どこにあるか知ってたら、教えてくれないかい?」
「地下鉄の駅ですね!えっと……何駅ですか?」
「『晴美ヶ丘』っていう駅なんだ」
「あ、わかります!」
自分が進んできた方向を見やって、美海は勝手知ったる地元の説明をする。
「この大通りをまっすぐ進んで、いち、にい、さん、……みっつ目の信号を右に曲がります」
「ふむふむ、三つ向こうの信号を右だね。うんうん」
「それで、曲がったら右側の歩道を進んでください。そうすると……えっと、少し歩くと牛丼屋さんがありまして」
「ああ、うん。右側を歩いて行くと牛丼屋……」
美海がそこまで説明すると、にこやかだった男性が少し不安げな表情を見せ始めた。
(……大丈夫かなぁ。牛丼屋さんを通りすぎて横断歩道を渡ってから右に三分くらい歩くと地下鉄の看板があって階段を降りるんだよね……わかるかなぁ)
顔を見合わせて、むむむ、となる二人。
そこで、男性がニッコリと笑った。
「こっちに進んでみっつ目の信号を超えて、右に行ってから牛丼屋だね。わからなかったらまた聞いてみるとするよ。親切にありがとう」
ぺこりと頭を下げた男性が、笑った。
ちくり。
また道がわからずに困る男性を思い浮かべ、胸に痛みが走った瞬間。美海は 自分の胸に手をあてて微笑んだ。
「あ、あの!私、ご案内します!」
その申し出に目を大きく見開いた男性が、慌てて手を振った。
「いや、いいよいいよ。もう十分に教えてもらったし、早く学校に行かないと遅刻してしまうよ?ありがとうね」
「いえ!私、今日は早く出てきたのでご案内できます!ここからだとちょっとわかりにくいですし、ご迷惑じゃなかったらですが!」
「そ、そうかい?僕にとってはもの凄くありがたいんだけど……じゃあ、申し訳ないけどお願いしてもいいかな」
「はい!もちろんです!」
●
無事に駅に着いてから、改札を抜けて振り返っては何度も笑顔で手を振る男性を笑顔で見送った美海のその手には、地元の名産品の紙袋が二つ。
(ミッション成功、よかったぁ。でもでも申し訳ないなぁ。お土産、持ってかなくて大丈夫なのかな。『僕に恥をかかせないでほしいんだ、つまらない物だけど』って言われちゃったから断り切れなかったよう。ごめんなさい、ありがとうございました)
美海は男性の姿が消えた方向に深々と頭を下げた後に駅の時計を見上げた。
(よし、まだ時間はあるっ!予定通りっ!)
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