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昼休みに
昼休み。
昼食を終えた美海、芳乃、菜々子の三人は、美海が書いた手紙の最終チェックをする為に屋上へ向かった。
先週末からバレンタイン前日の今日にかけて、寒波の影響で降雪が予想される程の寒さの中で、この天気なら屋上付近は人が少ないだろうと踏んだ芳乃が二人を誘ったのである。
美海と菜々子はその提案に乗った。心が籠っているように見えるかじっくりと確認してもらいたい美海に、親友の成功を祈りつつも告白レターなど書いた事がなく、興味津々である芳乃と菜々子。三人は寒さなど感じる暇がないほどだ。
明日はバレンタインデー。想いを寄せる男子がいる女子にとっての大イベント、三人の気持ちが思い思いに高ぶるのは当然のことであった。
●
階段の端に座り、体を寄せ合って美海が書いた手紙を読む芳乃と菜々子。傍には、三人で温もりを分け合いながら様子を見まもる美海がいた。
芳乃と菜々子は真剣な表情で手紙の文面を追い続ける。美海は気がつけば、祈るように手と手を組み合わせてながら二人を見つめる。
と、しばらく経って。手にした手紙を宝物のようにそっと畳んだ芳乃が、そろりそろり、と兎がプリントされた可愛い封筒の中に戻していく。
芳乃が伏せていた瞳を上げた。少し遅れて菜々子も顔を上げ、二人で美海の顔を見た。
「ど、どうだった?字、間違えたり……きゃあ!」
「みうみう!『小学校から遠峰君の事が好きでした。今年は、勇気を出してみようと思います。私は遠峰君とお付き合いしたいです。でももし、他に好きな人がいたら無視してくれて結構です。大好きです。ずっと大好きです。もしよかったらお返事を下さい。 堀美海』……いいっ!むしろ私の嫁になってえええええ!」
「きゃあ!何で読み上げるのお?!抱きつくのぉ?!」
顔を赤らめながら美海にしがみつく菜々子。その頬に、芳乃の手が伸びた。
「こら菜々子、離れろ。美海がお前みたいになったらどうすんだよ」
「ふぎゅ?!は、はによそえー!」
「び、びっくりした!」
引きはがされた菜々子に驚き、美海は胸を押さえる。
「でも、さ。美海」
「ん?」
両手で差し出された封筒を同じように受け取り、首を傾げる美海。
「あたしは、好きなんて手紙で言う柄じゃないけどさ。気持ちがたくさん籠ってる。ぞわぞわ来た。すごいよ美海」
「ね!ね!私もぞぞぞっ!て来てる!気持ち、届くよ!」
芳乃と菜々子が美海に顔を寄せた。寒さでヒンヤリとしていた三人の頬が、瞬く間に熱くなっていく。
「うちらの自慢の親友の頑張り、特等席でガン見させてくれ」
「頑張れみうみう!頑張れ、頑張れ!きっと、大丈夫!」
「芳乃……!菜々子……!うん、うん!頑張るっ!」
芳乃と菜々子のエールに、目を潤ませる美海。三人は互いの制服を握りしめ、体を寄せあった。
「美海。まだ泣くな……ぐす。気持ちが届いた時のうれし泣きに取っておかないとな!」
「んだんだっ!ふぐぅ!」
「ふううっ!……う、うん!わかった!」
三人は慌ててハンカチを取り出し、涙を拭き合って泣き笑いをした。
●
「で、いつ下駄箱か机に入れるん?ま、本チャンは明日だしチャンスを待とうとして風邪とか引くなよ?無理はすんな」
「今日か明日成功したらいいんだからね!」
そんな親友達の言葉に、美海は両手の拳を握りしめて言う。
「うん、無理はしないね。でもできれば今日の帰りか明日の朝に……!」
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