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「………?」
俺は驚き、腹を立てていた事も忘れて戸惑っていた。
「な、なんで…!?」
何度も妻に触れようと手を伸ばすが、何度も通り抜ける自分の手。
あまりにも異常な光景に、俺は混乱のあまり目が回りそうになった。
その時…。
『…どうして…死んじゃったの…』
妻が肩を小刻みに震わせて、何やら呟いている。
俺は強張る表情のまま、妻の呟きを聞き取ろうと耳をすませた。
『私たちを置いて、事故で死んじゃうなんて…帰ってきてよ…あなた…』
そう言って静かに涙を流す妻の姿に、俺は頭が真っ白になった。
「も、もしかして…」
俺は、妻と娘に無視されていたのではなく…。
自分の身に何が起こったのか全く覚えていないけれど…俺は事故ですでに死んでいるのか…?
そう理解した時、全身から力が抜けた。
「…なん、だよ…それ…ははっ、ははは…」
途端に目から涙が溢れてきて、俺の中で後悔の念が込み上がってきた。
俺は愛する妻と娘を残し、死んでしまったというのか。どうすれば、いい…? 未だに死んだ時の記憶が戻らない俺はこれから、自分の家族をどう守っていけばいい?
しばらく放心していた俺は、気をしっかりと持ち…とりあえず、自分の事故現場に向かってみようと思った。行けば、何か思い出すかもしれない。
リビングを出て、先ほど脱いだ革靴を履き直す。
靴を履きながら、俺は…もう、『おかえり』とは言ってもらえないのだと実感して、気持ちがどんどん沈んでいった。
俺はこれまでの短い人生を振り返る。
一年浪人して入った大学、見事合格通知を貰えた大手企業。その後に妻と出会い、娘が生まれて…。
と、そこまで考えてから俺はおかしな事に気付く。
「待って、俺…誰かと結婚したっけ…?」
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