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「おじさーん!」
おじさんは背が高いから、遠くからでもすぐわかる。ボクは到着ゲートから駆け寄った。
「やせた? ご飯食べ忘れたりしてない?」
おじさんは、のんびりした動きでモシャモシャ頭をかいた。
「三日でそんな痩せるか。それより腹減ったろ、なに食いたい?」
「ラーメン! 黄色いたまご麺でコテコテな札幌味噌がいい! あと豚丼とジンギスカンと、回転寿司も行きたいし、スープカレーと」
「待て」
おじさんは少し頭を抱えてから「メシは一つに絞れ」と言った。
※※※
悩んだけど、結局ラーメン(+ライス)にして、出来たてぽて◯ことアイスクリームをデザートにした。デザートは主食じゃないからいくつでもいいよね? と聞いたら、おじさんはまた頭を抱えて「二種類まで」と答えた。
「うまいか」
「美味しい!」
「…そりゃよかった」
「おじさんはアイスいいの?」
「これ以上食ったら腹パンクする」
「でもアイスは別腹でしょ」
「俺にそんな便利なオプションついてねえの」
チョコレート工場やミュージアムも見学して、おみやげにチョコも買って、五階からエスカレーターで降りながら、広場を見る。人がたくさん。
「おじさん。ボク…新千歳空港、好き」
「へえ」
「おじさんがボクのこと忘れちゃった時は、どうしよう! って思ったけど」
「…すまん」
「ううん。でも、ここ来ると、おじさんち来た時の、美味しいもの楽しいこと沢山の、ワクワクした気持ちになれるんだ」
「へえ」
「ボクね」
落ちないように、エスカレーターの手すりをグッとつかんだ。
「……ウチでも、そういう気持ちになりたかったんだよ」
※※※
中三の夏休み。
ボクは、千葉の実家に帰ることにした。
ボクは、千葉のこと全然知らない。千葉県産の野菜だって普通に北海道で売ってたりするのに、食べたら美味しいのに、千葉での美味しいものの記憶が全然ない。ショックだった。
だから、家の周りの美味しいお店を食べに行こう、って思った。ママだって、一年たてば前より少しは分かってもらえると思った。高校のことも話し合いたかった。
でも。
「ママ、ボクの料理に文句ばかり言った」
「そうか」
おじさんの車に乗ったらすぐ、グチが出た。
「ボクが調べたお店も、あそこは高いばかりで美味しくないとか、店員が愛想悪いとか、イヤなことばかり言うし、でもボク一人で行くと怒るし」
「そうか」
「おばあちゃんと三人で行ったら、二人でずっと文句言ってて…こんな料理じゃダメだ、店のために言ってるんだ、って……恥ずかしかった」
「そうか」
服だって、ママの希望通りに男っぽい服にした。家で作るメニューも、皆んなが好きそうなメニューたくさん考えた。
ボクが福島で、北海道で、何度も経験して好きになった『美味しいご飯食べるのってこんな楽しいんだ!』を、ウチでもやりたかった。
でも、ダメだった。
「成田空港にだって美味しそうなお店、たくさんあるよね、すっごい広いし。でも……」
ここはおじさんの車の中だから、涙を我慢しなくてもよかった。
「ダメなの。ママやおばあちゃんが一緒だと、楽しめないんだ……ボク……皆んなで、楽しくご飯、食べたいだけなのに…だから、早く帰ってきちゃっ…」
車が信号で停まった。おじさんはボクの頭をモシャモシャなでた。
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