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私に恋愛なんて、勿体ないと思ってた。
𓍯𓂃 𓈒𓏸
カチカチとキーボードを叩く音が静寂なオフィスに響き渡る。薄暗い室内。デスクランプの光に私のあくび顔が照らされて、パチンと頬を叩いた。
「(よし、ラストスパート……!)」
私を知る彼が今の私を見れば、なにやってんだか、の目を向けるに違いない。けれどもこれが私だ。例えば私が利用されていても、利害関係が一致していれば何の問題もないのだ。
山積みだった資料は残り半分程度まで進んだ。窓の外はすっかり暗くなっている。
気合いを入れ直しパソコンに向き合うと、背後で足音が聞こえた。
「志麻、まだ残ってたの?」
トン、と背中を叩いたのは聞き覚えのある声だけれど、私にとって、緊張感を与えるそれだった。
「!小林課長、お疲れ様です」
小林課長は私を見ると爽やかな笑顔を浮かべ「お疲れ」と、軽く挨拶をした。小林課長と違って簡単に笑顔を作れない私は、ゆるゆると頬に熱が籠るのを感じて目を逸らした。
「あまり遅くまで残るなよ」
忘れ物を取りに来たらしい小林課長は私の肩をポンッと叩き、「じゃあ」と言ってすぐにオフィスを後にするから、緊張の糸はすぐに解れ、誰もいないオフィスに私のため息が浸透する。
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