ヴィーナスも夢を見る

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 渡されたペットボトルに口をつければ、今度はペットボトルを回収され、詠がそのキャップを閉じる。 「恨んでるし、憎いに決まってる」  詠の返答に対して、当たり前だ、と思った。  詠は一度ペットボトルをテーブルの上に置く。部屋の常夜灯に反射する、死んだ瞳の煌めきが不気味だった。 「じゃあ、憎いあたしの面倒を見るのなんかやめて、今すぐ帰ったら?」 「勝手に死なれたらこまるから、(すい)が眠ったら帰る」 「じゃあ薬、とって。テーブルの上にあるでしょ」  彼はだまってテーブルに手を伸ばす。かさかさとパッケージを手繰り寄せる音に被せて、「何錠?」と聞かれるので、「2錠」と返事をした。  夢の中で見た懐かしい景色を反芻する。今飲んでいる薬は、あのとき飲んだ薬とは別物だけど、あたしをきちんと眠らせてくれるのなら、組成などなんだって良い。 「あの日ね、零に睡眠薬を口移しされたの」 「……へえ」  詠がベッドフレームの脇に腰掛ける。彼は取り出した薬をあろうことか自分で口に含み、あたしに甘くない口づけをした。  こちらに迫りくる、予定調和かのように整えられた顔つきは、神様が気まぐれにはめ込んだピースがたまたま正解を示したような、そんな危うさがある。だが彼はそんな危うささえ魅力に変える、狡い男だ。 ベッドがぎしりと不快な音を立てる。
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