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過去〈可哀想〉
巳波side
兄の背中を追いかけて、夏目組に入ったのは
15歳になってから。
そしてその夏目組若頭が溺愛する女
ーーーそれが“栗原円香”だった。
「お前には円香と同じ高校に通ってもらう」
「はい」
「お前は円香の“監視役”だ。円香に近づく奴を見つけ次第排除しろ、そして俺への報告も忘れるな」
「わかりました」
真っ黒な瞳が俺を射抜く。
栗原円香の名前を呼ぶ度にドロ、とその瞳は甘く濁り、名前さえも人に聞かせたくない程栗原円香のことを溺愛してるんだな、とぼんやり思った。
「本当は男なんぞに頼みたくないんだが…、こればっかりは仕方ない。分かってると思うが、円香と必要以上に話すなよ。あいつには俺だけいればいいんだ」
ジリ、と吸っていた煙草を灰皿に押し付ける。
俺にはその仕草が、やけに丁寧に思えた。
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