過去〈可哀想〉

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それから巴衛は、本当に夏目組の組員になってしまった。 どんな手を使ったかわからないけど、巴衛のような優しい人間でもヤクザの一員になれてしまうなんて。 「今となっては、若の右腕なんだもんな…」 当時の事を思い出して、ぽつり独り言を言う。 俺の組入りなんて巴衛に反対されるかと思ったけど、そんなことは無く。 『蒼に覚悟があるなら』と、あっさり受け入れて貰えた。 巴衛の口添えがあったからか、組員たちに反対する者はいなかったらしく、俺はすぐに組入りすることか出来た。 俺の人生なんてゴミみたいなものだから、覚悟なんてあってないようなものだ。 だって、巴衛以外どうでもいい。 「あーあ、何で俺が女のお守りなんか…」 「何だ蒼、不満なのか?若直々にお前に頼んだんだぞ?ちゃんと責任もって任務をこなせ」 いつの間にか傍にきていた巴衛が、俺の隣に座る。 うわ、聞かれてた。 「だって、巴衛と同じ仕事が出来ると思ったのに…」 「お前なぁ、まだ高校生なんだから俺たちと同じ仕事が出来るわけないだろ?」 「…俺は巴衛の力になりたくて、この世界に入ったんだ。それなのに…」 どうして女の監視役なんか。 これがヤクザの仕事…? 思いっきり若頭の私情を挟んでるじゃないか。 「蒼は若に期待されてるってことだよ」 「…そうかな」 「だって若が命よりも大事な円香ちゃんを組員に任せるなんて前代未聞だぜ?」 「いっつも俺らに睨み効かせてたもんなー」と、楽しそうに笑っている巴衛。 ……命よりも大事、ね。 「…あの女にそこまでの価値があるとは思えないけど」 あの女の情報が書かれた書類のようなものを 「1分で覚えろ。それ以上は見るな」と若に言われ見せられたけど、いまいちパッとしないどこにでもいるような女だった。 どうして夏目組の若頭ともあろう人間が、こんな年下のガキ(俺は同い年だけど)に入れ込むのか、理解不能すぎて。 「…若は、円香ちゃんに救われたんだよ」 どこか懐かしむような、慈悲深い笑みを浮かべている巴衛。 巴衛のそんな顔を見るのは初めてで、思わず見惚れてしまう。 …何だよ、俺には巴衛しかいないのに。 そんな顔なんて俺以外に向けるなよ。
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