過去〈可哀想〉

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「ねぇ巳波くん。巴衛さんって、優しいよね!」 とある日の昼休み、勝手に机を寄せられて、 一緒に昼食をとっているような空気になった時、不意に栗原円香がそう言った。 「この前、椿くんに内緒で私の好きな作家さんの本をくれたの。久しぶりに嬉しかったなぁ」 にこ、と珍しく自然な笑顔を見せる栗原円香。 いっつも不自然に作った下手くそな笑顔なのに。 …ふーん。笑った顔は悪くない。 って、何をおかしなこと考えてるんだ俺は。 まあこいつも休みの日なんて1歩たりとも屋敷の中から出して貰えないらしいし、退屈で仕方ないんだろう。 それを見兼ねた巴衛が若にバレないようにこいつに渡したんだろうな。…ほんと、お人好し。 「…よかったね。いい暇つぶしが出来て」 「うん!あ、でもね…」 俺の皮肉に馬鹿な栗原円香は全く気付く気配がない。面白くないな。 そして何故か照れ臭そうにしている栗原円香に俺は首を傾げる。 ……何モジモジしてるんだよ。 「ーーー巳波くんも、優しいよね」
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