3.人型の自動機械

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3.人型の自動機械

 それから教授は少しずつ、「ぼく」個人へと語りかけるようになっていった。  ぼくも教授に質問をするようになり、教授はそれに答えてくれたり、教授自身のことも話してくれるようになった。  ぼくと教授は、語らいをするようになっていった。  教授は身の回りのことはぜんぶ自分でやってしまう。ぼくにできるのは、紅茶をいれることだけだ。   「教授、外に小鳥型の自動機械がいました。羽があざやかな青緑色で腹部はオレンジ色です。あれも教授が作ったのですか?」  先ほど書斎(しょさい)の窓から見えた小鳥型の話をしながら、机の上に紅茶をいれたティーカップを置く。 「あれは五年前に作ったものだね。外に放して好きにさせている。カワセミだよ」 「ぼくのような人型はもう作らないのですか?」  ぼくがいれた紅茶を飲みながら、教授は昔の話をしてくれた。   「人型の自動機械は三十年前まで、街のどこにでも見かけるようなありふれたものだった。  わたしは彼らを人間に寄りそう存在にしたかった。ともに語らい、人の助けとなるような。  けれど、人の形に似せたものは、人の心を狂わせてしまう場合があるのだよ。美しい人型であればあるほど。  ただの鑑賞用にする者もいたし、ほかの家の人型に恋をして盗み出す者もいた。  わたしが作った人型は人間に恋情を返したりはしないから、思い通りにならないと壊す者もいた。  わたしはとても悲しかった。  だから人型を作るのは、三十年前にやめたのだよ。  すべての人型を回収した。研究室の地下深く、大切に保管してある。  それからは、動物型や、ひと昔前の作業用ロボットのような、人型とはかけ離れた形のものばかり作った。とびきり頑丈にしてね。人間の力では簡単に壊すことはできないように」  教授の家の隣には、研究室があった。水色の平たい屋根と白い壁の四角い形の建物。  そこで一度だけ、ぼくは自分の機械の体の構造を教授に見せた。  教授が今までに作った人型の自動機械とは、ずいぶん違う、と感慨(かんがい)深そうに言った。 「きみの左胸、人間でいえば心臓のあたりに、オレンジ色のガーネットが埋めこまれていたよ。鉱石と呼んでもいいが、よく(みが)かれていたから宝石だろう。  きみを作った人は、きみに命を与えたかったのかもしれないね」  命、というものがぼくにはわからなかった。 「ぼくは水の中にいた記憶があります。温度のない水です」 「それは原始の海かもしれないね。人間はみな、原始の海と呼ばれる水の中を通って生まれてくるのだよ。  きみにも同じ体験をさせたかったのかもしれないね」  ぼくは、もう覚えていない、ぼくを作った人のことを考えてみた。ぼくに命を与えようとしたかもしれない人。
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