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1.未来郵便列車
この街にはひとつだけ不思議なものがある。
この街には、駅が一つしかなかった。その駅に、半年に一度、「未来郵便列車」が停まる。
その列車は車両が二つだけ。車体は濃い青色。運転士が一人いるけれど、言葉を交わすことはない。
列車の中には、未来から送られたという郵便物を乗せている。
送り主も、何年先の未来から届くのかも、届けられた理由も、だれも知らない。
ただ、郵便物には宛名だけがある。
郵便物ではあるけれど、手紙であることはほぼない。
古めかしい腕時計、綺麗な木目の空の木箱、ガラスの水差し、磁器製のティーカップ、一輪の赤い花。ほかにもさまざま。
送られてくる理由がわからないから、受け取った人たちの反応もそれぞれだ。だいじに取っておく人、売ってしまう人、だれかにあげてしまう人。
「未来郵便列車」から下ろされた郵便物は、街で一つだけの郵便局に保管される。宛名に書かれた街の人に、郵便局から連絡をする。連絡を受けた人は、郵便局に受け取りに行く。
「最初のころは、街のみんなは驚いていたけれどね。五十年も続けば、もう慣れたものだよ」
郵便局長さんは、そう言った。
ぼくは郵便局長さんに連れられて、教授の家へ向かっていた。局長さんの運転する郵便局の車に乗って。
「それでも、人型の自動機械が届いたのは初めてだね。とうとう未来の人間が列車に乗ってやってきたのかと思ったよ」
局長さんは助手席に座るぼくに親しげに笑いかけた。
ぼくの見た目は、十二、三歳くらいの短い黒髪の少年だった。
えり付きの白いシャツに黒のクロスタイ、グレーのベスト、チェック柄のネイビーブルーのスラックス、黒い革靴。これから会う相手にふさわしい、礼儀正しい服装をするようにと、もう顔も思い出せない主人に言われたのだ。
「でも、教授のところにだったら、未来から自動機械が送られてきても不思議じゃないね。教授は昔から自動機械を作り続けていたから。今は人型なんて一体も見かけないけれど、三十年前までは街には教授の作った人型の自動機械がたくさんいたんだよ」
「今はいないのですか?」
「うん。いないんだ。教授が全部回収しちゃったからね。今街にいるのは、教授が作った動物型の自動機械と、作業ロボットばかりだよ」
ああでも、と局長さんはあわてて付け加えた。
「教授は怖い人じゃないよ。回収した人型は、ちゃんと大切に保管しているんだって。だから、きみのことも大切にあつかってくれると思うよ」
郵便局長さんは、教授とは子どものころからの友人だと話してくれた。もう五十年来の付き合いだという。
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