0人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話
「一体どういうことだ。教えてくれ。ところで君の名前は」
「ツヅキ。捜査の責任者です」
「そうか。ツヅキ、ノーマンは一体どんな淫らな女性関係を築いていたのだ」
知ってんじゃん。だから殺したんだろうけど。
「分かりません。今言えるのはなんというか、女性関係でざまあ、なのかな? としか」
「女性関係でざまあ。なんというざまあ。絵に描いたようなざまあではないか」
「いえ、ざまあはどちらかと言うと不遇や虐げられた者の所業。鬱屈した展開からの復讐劇」
「だがレディースなコミックでは定番ぞ」
「申し訳ありません。レディースなコミックを読まないもので」
「勉強不足。メスについてもっと知るべきだ。他に気づいた点はあるか」
他……そう、他の何かを見つけないと俺の首が危ない。女性関係でざまあなのは間違いないが、そちらで進めるとなぜか俺がざまあされる。
「誰かにとっては悪役だったのかも」
「む、悪役令息という奴か。けしからん。どうせ女性をメス呼ばわりする輩。彼がそうであったと?」
メスって言ってんのさっきからあなただけだ。
とりあえず、血塗れのその手をこちらに向けないで欲しい。
隠す気ないだろ。
「いえ、優秀ゆえ妬む者もいたでしょう」
「妬み僻みか。全く縁がない。犯人は一体どういう精神構造か」
ぜひ自己分析して欲しい。解決した後で。
「優秀ですから、少し変わっているかもしれない」
「犯人がか? どういう意味だ」
「ノーマンです。犯人はそう、まだなんというか、色々赤いな、としか」
「赤い。君の勘がそう言っているのだな」
「はい」
バーバラの手には血がべっとり付いている。衣服のそれは大量の返り血だろう。もう黒くなっている。目が血走っているのは、話の展開次第では「お前も殺す」という意味にしか取れない。
ふっとバーバラが視線を向けた。脇道にあたるその先にゴルフクラブが転がっていた。もちろん赤いが、あれはデザイン。
「凶器が分かりません」
「む、刺し傷に打撃痕。二種類の凶器だな」
「はい、でもどこにも見当たらない。捜査は難航するでしょう」
「なんと! Sクラスが殺されて、それで迷宮入りとは許されない! ツヅキ、一体どうするつもりだ!」
それをさっきから考えてる。ちょっと黙れメス豚。
事実関係は覆せない。
だが着眼点は変えられる。
どこに出しても恥ずかしくない捜査報告書。
ギルドの沽券と俺の命がかかった完璧な誤認捜査。
なんとしても完遂しなければ。
「これは本当に打撃痕なのでしょうか」
「ん? 頭が凹んでいるぞ。べこべこだ。これを君は、打撃ではないと言うのか。どういうことか」
間違えたら俺がべこべこにされるな。なんてざまあ、ではなく様だ。触れない方が良かったか。
「打撃は本来、刃物による攻撃に劣ります」
「む、そうだな。ではなぜ打撃痕がある」
「恨みが深かった……」
「どんな恨みだ」
女関係。想像するに頭部、顔を潰すほど憎んでいた。バーバラが。
「一旦置いておきましょう」
「なんで?」
広げると「なんで殴ったんですか?」と確認することになるからだ。
「腹部の刺し傷、これが致命傷と思われます」
「そうだろう。私もそうだと思っていた」
「鋭い刃物。傷痕から刃渡りはそれほど長くない。ソード系ではないと推測されます」
「うん、こんな感じか」
そう言ってバーバラは、ひと振りのナイフを取り出した。もちろん赤いが、血ぐらい拭き取っておいて欲しかった。
「恐らくそのような凶器でしょう。刺し傷は複数ある」
「グサグサといったわけだけな。なんという凶悪な」
何度もナイフを突き出すバーバラの仕草は、再現検分のようだ。やめてくれ。
「でも違うかもしれない」
「なんと! 刺し傷が致命傷ではないというのか」
彼女のそれは舞台女優のようだった。その演技力どこで磨いた。俺も欲しい。
「高度なバインド系の魔法。これがどうしても気になる」
「なるほど、使い手に心当たりは」
お前しかいない。
「対魔獣用、およそ人に向けるものではない」
「つまり、犯人にしてみればノーマンは魔獣のようであると。そう言いたいのか」
化け物はあなただが、そうかもしれない。
「わざわざ拘束し、こんな人通りの多い場所に連れてきた。そういうことではないかと」
「違うと思うぞ。たぶん正面から堂々捕まえたんだ」
「そうですか」
本人が言うんだからそうなんだろう。
「では、ここで戦闘になり拘束魔法を使用した」
「うん」
取りようによっては自白だな。忘れよう。
「ここは歓楽街にも近い。しかし、深夜となれば人目につかない」
「犯人は人目を気にしていたと」
「いえ、たぶん気にしていない」
「なぜそう思う」
「いやだって……」
街中堂々、住宅だって多い。ビジネス街でもあるが住人は一定存在する。声を聞かれても一向に構わない。姿勢は明白だ。
最初のコメントを投稿しよう!