第2話

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第2話

「一体どういうことだ。教えてくれ。ところで君の名前は」 「ツヅキ。捜査の責任者です」 「そうか。ツヅキ、ノーマンは一体どんな淫らな女性関係を築いていたのだ」  知ってんじゃん。だから殺したんだろうけど。 「分かりません。今言えるのはなんというか、女性関係でざまあ、なのかな? としか」 「女性関係でざまあ。なんというざまあ。絵に描いたようなざまあではないか」 「いえ、ざまあはどちらかと言うと不遇や虐げられた者の所業。鬱屈した展開からの復讐劇」 「だがレディースなコミックでは定番ぞ」 「申し訳ありません。レディースなコミックを読まないもので」 「勉強不足。メスについてもっと知るべきだ。他に気づいた点はあるか」  他……そう、他の何かを見つけないと俺の首が危ない。女性関係でざまあなのは間違いないが、そちらで進めるとなぜか俺がざまあされる。 「誰かにとっては悪役だったのかも」 「む、悪役令息という奴か。けしからん。どうせ女性をメス呼ばわりする輩。彼がそうであったと?」  メスって言ってんのさっきからあなただけだ。  とりあえず、血塗れのその手をこちらに向けないで欲しい。  隠す気ないだろ。 「いえ、優秀ゆえ妬む者もいたでしょう」 「妬み僻みか。全く縁がない。犯人は一体どういう精神構造か」  ぜひ自己分析して欲しい。解決した後で。 「優秀ですから、少し変わっているかもしれない」 「犯人がか? どういう意味だ」 「ノーマンです。犯人はそう、まだなんというか、色々赤いな、としか」 「赤い。君の勘がそう言っているのだな」 「はい」  バーバラの手には血がべっとり付いている。衣服のそれは大量の返り血だろう。もう黒くなっている。目が血走っているのは、話の展開次第では「お前も殺す」という意味にしか取れない。  ふっとバーバラが視線を向けた。脇道にあたるその先にゴルフクラブが転がっていた。もちろん赤いが、あれはデザイン。 「凶器が分かりません」 「む、刺し傷に打撃痕。二種類の凶器だな」 「はい、でもどこにも見当たらない。捜査は難航するでしょう」 「なんと! Sクラスが殺されて、それで迷宮入りとは許されない! ツヅキ、一体どうするつもりだ!」  それをさっきから考えてる。ちょっと黙れメス豚。  事実関係は覆せない。  だが着眼点は変えられる。  どこに出しても恥ずかしくない捜査報告書。  ギルドの沽券と俺の命がかかった完璧な誤認捜査。  なんとしても完遂しなければ。 「これは本当に打撃痕なのでしょうか」 「ん? 頭が凹んでいるぞ。べこべこだ。これを君は、打撃ではないと言うのか。どういうことか」  間違えたら俺がべこべこにされるな。なんてざまあ、ではなく様だ。触れない方が良かったか。 「打撃は本来、刃物による攻撃に劣ります」 「む、そうだな。ではなぜ打撃痕がある」 「恨みが深かった……」 「どんな恨みだ」  女関係。想像するに頭部、顔を潰すほど憎んでいた。バーバラが。 「一旦置いておきましょう」 「なんで?」  広げると「なんで殴ったんですか?」と確認することになるからだ。 「腹部の刺し傷、これが致命傷と思われます」 「そうだろう。私もそうだと思っていた」 「鋭い刃物。傷痕から刃渡りはそれほど長くない。ソード系ではないと推測されます」 「うん、こんな感じか」  そう言ってバーバラは、ひと振りのナイフを取り出した。もちろん赤いが、血ぐらい拭き取っておいて欲しかった。 「恐らくそのような凶器でしょう。刺し傷は複数ある」 「グサグサといったわけだけな。なんという凶悪な」  何度もナイフを突き出すバーバラの仕草は、再現検分のようだ。やめてくれ。 「でも違うかもしれない」 「なんと! 刺し傷が致命傷ではないというのか」  彼女のそれは舞台女優のようだった。その演技力どこで磨いた。俺も欲しい。 「高度なバインド系の魔法。これがどうしても気になる」 「なるほど、使い手に心当たりは」  お前しかいない。 「対魔獣用、およそ人に向けるものではない」 「つまり、犯人にしてみればノーマンは魔獣のようであると。そう言いたいのか」  化け物はあなただが、そうかもしれない。 「わざわざ拘束し、こんな人通りの多い場所に連れてきた。そういうことではないかと」 「違うと思うぞ。たぶん正面から堂々捕まえたんだ」 「そうですか」  本人が言うんだからそうなんだろう。 「では、ここで戦闘になり拘束魔法を使用した」 「うん」  取りようによっては自白だな。忘れよう。 「ここは歓楽街にも近い。しかし、深夜となれば人目につかない」 「犯人は人目を気にしていたと」 「いえ、たぶん気にしていない」 「なぜそう思う」 「いやだって……」  街中堂々、住宅だって多い。ビジネス街でもあるが住人は一定存在する。声を聞かれても一向に構わない。姿勢は明白だ。
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