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第4話
「ではこれにて。死体を処理します」
「一ついいだろうか」
「なんでしょう」
「自殺、というのはないか」
「ないです」
「……誰の手間も取らせない。心苦しさもない」
自白し出すのやめろ!
バーバラは申し訳なさ気で、絶対違うのに可憐に見える。幻覚魔法をギルドに向けるとはなんという危険人物。
「こんな派手な自殺ありません」
「あるだろう。人は色々な最期を選ぶ。茶釜を抱いて爆死した武将を私は知っている」
「松永弾正、確かに。そんなお伽噺はあります。異世界ですな。が、これは無理だ」
「どうして……」
別れ話のノリになってきた。
涙目を向けるな! 泣きたいのはこっちだ!
「バインド系の高位魔法で拘束しながら、誰が刺すんです」
「複数犯?」
話を広げるな。複雑化してややこしくなる。
「複数の犯人、確かに可能性はあるでしょう」
「あるならそれでもいいじゃないか」
こいつ完全に開き直ってやがる。俺みたいだ。
バーバラ嬢に言い聞かせるよう言葉を紡ぐ。
「いいんです。もしそうだとしても、高位の拘束魔法を使える者がいないと話にならない」
「心当たりは?」
「全くありません」
「そうか……」
そんな奴異世界にしかいない。きっと大量のざまあを繰り広げ、聖女だけど少年なのだろう。追放された悪役令嬢の流行には光の速さも追い付けまい。
「一つ、最後に一つだけ聞かせてくれ」
「なんです。なんでも聞いて下さい」
「うん、動機をどう考える」
自分に聞け。とは言えない……参ったな。
「犯人にも思うところはあったかと」
「例えば?」
「ノーマンはモテます。不正に不正を重ねた不届き者ですが、外面の完成度は高い」
「べこべこでよく分からない」
「はい。べこべこにするぐらい酷いことをしたのかと」
「どんなだろう?」
知らんがな。自分の日記にでも書いてろ!
人目に晒したいなら魔法掲示板か魔術SNSに告白文でも書け!
と言えればどれほど楽か。
命大事に俺は続ける。
「想像するに」
「想像ではなく事実が欲しい」
そのまま持って帰れ。
間違ってもここで吐くなよ……!
ーーだがバーバラは語りだした。
「乙女心は傷つきやすい。殿方とてそうだろうが、心の機微は女が勝る」
さっきまでメスって言ってたよな?
「なるほど確かに、我々は無骨。人知れず傷つけることもありましょう」
「デートをすっぽかされた女の痛みなど、想像もつかんか」
「……それはいつ約束されたのです」
「一ヶ月前だ。それに合わせて帰還した」
別人の話だろう。友達……とか?
「お友達は約束されていたのですね」
「私は一ヶ月前の約束を忘れてはいなかった」
幻聴だ。俺の疲れに働き方改革。今必要なのは休養と安全。緊張で聞いてはならないものが聴こえてくる。
「ところが少し早かった。浮かれていたのか二日ほど早く着いた」
バーバラは回想を始めたが、俺は二日前に戻りたい。近くにタイムリープしてる奴はいないだろうか。死に戻り系でも構わない。このまま死ぬよりやり直したい。
家族の顔なんて何年振りに浮かんだろう。親孝行出来なくてごめんなさい。
「あいつは、ノーマンは他の女性と歩いていた」
「どこのノーマンです。ギルドの面子にかけて対処しますが」
「そこに転がってるノーマンだ」
彼女は指差しているがどこだろう。俺にだけ見えないノーマンがいるな。
「朝から晩まで、女性をとっかえひっかえ寝所に連れ込んでいた。高そうなホテルや安そうなホテルにもだ」
もう罪の告白なんだが。俺は裁判官ではない。
なんで俺に死刑判決が下るんだ。法律はどこへ行った!
「ランク付けしているようで不快だった」
「そんな輩死んで当然」
「そうだろうか?」
「俺よりは」
保身が全面に出だした。命の危機を感じると人はうまく嘘がつけなくなる。
「私は知っていた。ノーマンはモテる。少ない友から聞いてもいた」
「そのノーマンはそうなのですね」
「そこに転がっている」
知っていることはいちいち言わなくていい。
「私は、ただ初デートを楽しみたかっただけだ。少し背伸びして、モテるイケメンとやらがどう女性を楽しませるのか、知りたかった」
「素朴……ですね。情状酌量で起訴どころか捜査もされないでしょう」
「それはよくない。法治国家は法に従うべきだ」
人殺しに社会のあり方を諭された。
殺人者バーバラは続ける。
「だがノーマンは来なかった。それどころか他の女と歩いていた」
「他の女……ノーマンは勇者ですね」
「なら、私は差し詰め魔王といったところか」
「あなたは天女です」
「世辞はいい」
命乞いだが伝わっていない。圧倒的強者感。ギルド職員との差はさながら格差社会。実力だが。
「驚くことに覚えてすらいなかった。私のことなどモブと変わらん認識だったんだろう」
「それは凄まじい誤認ですね」
バーバラは苦笑し儚げにはにかんだ。
「笑うだろう。私はメスの一匹なのだ。世間ずれした私はその事実を受け入れられなかった」
「そうして捜査に協力を。感謝します。さあ解散しましょう」
「女の子の話は最後まで聞くものだ」
女の子なんて視界のどこにもいない。
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