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いびつな愛なんだと思う。でも、目の前に座っているヤハギさんは。
「幸せそうですね」
「ええ。幸せよ、とってもね」
「それは良かった」
つい、そんな台詞を口にしてしまっただけなのにヤハギさんが不思議そうに首を傾げている。
「ははーん。お嬢さん、実は良い人ですね」
「からかわないでくれませんか」
「からかってなんかいません。悪口じゃないんですから、恥ずかしがらないで受け取ってもらえれば」
「だから、わたしは」
「だからこそ、お嬢さんの本音をその意中の男性に全てぶつけるべきだと。わたしは心の底から思います」
わたしの顔色を見て、言うであろう台詞を読み取ったようで。ヤハギさんがそう返してきていた。
「友達からのアドバイス」
笑みを浮かべているヤハギさんに、友人になった覚えはありませんけど。って言うのはかなり失礼だよな。
「ヤハギさんも良い人そうですね」
「ええ。わたしほどの善人は数えられるほどしかいないでしょうね」
「いってきても良いですか?」
わたしの右目を覆い被せていた眼帯を外しつつ、ヤハギさんに聞いていた。
「決心をした女の子のとめかたを、わたしは知らないので。どうしようもないですし」
決心をしたつもりはないし、ツチウラくんに会って。なにかを伝えたい訳ではないのは自分でも分かっているのに。
「それを決心と言うんですよ」
「勝手に心を読まないでくれませんか」
ベンチから立ち上がり、座っているヤハギさんのほうに振り向いていく。
「ありがとうございます」
「それが看護師ですからね」
ヤハギさんに軽く一礼をすると、わたしは病院の外にいこうとはしりだしていた。
ツチウラくんに会いたい。
本当に、わたしは心の底から願っていた。
全力で、はしったのは久しぶりだな。
小学生の頃が最後だったような気がする。
と言うか、そもそもツチウラくんがどこにいるのかも分からないのに体力を使うようなことをするなんて、わたしらしくないな。
頭の中で色んなことを考えているはずなのに、どこかすっきりとしている。
死にたくなくなった訳じゃないけど。
どうせ最後が決まっていると分かっていても、わたしはやっぱり。
「見つけた」
色んなところをはしり回りすぎて、疲れているはずなのに。見つけられたことを喜んでいるのか、思わず声をだしていた。
「甘いものは苦手じゃなかったんですか?」
以前とは違い、大人の駄菓子屋として営業している店の前にあるベンチでツチウラくんが座っている。
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