ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 前編

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「カシハラくんの友人ですか?」 「いんや。悪友ってところかな」  半分くらいはジョークで言っているのかもしれないが、色黒の男性が意地悪そうな顔をしている。 「そんなことよりも中に入れてくれない? トイレを我慢しているんだよね」 「別に良いですけど」 「ありがと」  部屋の中へ入る時に、色黒の男性がわたしの頭をなでようとしたからか、思わず避けてしまった。 「ま、そこまで意外でもないか」  変なことを言いつつ、色黒の男性はトイレのほうに。  しばらくして、トイレからでると、色黒の男性はソファーに座り、自分の隣に座るように手招きしている。  それは見なかったことにして、わたしは色黒の男性の目の前にあるソファーに座ったが特に害してはないようで、楽しそうに笑っていた。  色黒の男性はタカセカサラと言うらしい。わたしもタカセくんに名前を教えようとしたが、すでにカシハラくんから聞いていたようだ。 「一応、確認しておきたいんだけど。オツノちゃんはジンとつき合っているの?」 「いえ。ただの知り合いです」 「ふーん。それじゃあ、おれがオツノちゃんを口説くのはありなんだね」 「まあ、そうですね。恋に落ちるかどうかは分かり」  また、お腹が鳴ってしまった。  タカセくんが目を丸くしている。しばらく堪えてくれていたが、ぷふふふっ、と空気をもらすように吹きだしていく。ついに我慢ができなくなったらしく大声で笑いだした。 「ごめんごめん。つい」 「別に、良いですよ」 「オツノちゃんってさ、意外と表情が豊かだよね」  目を細めているタカセくんが口もとを右手で覆いながら小さな破裂音を鳴らしている。そこまで我慢しなくて良いのに。  向かい合わせのまま雑談をした後、わたしとタカセくんは一緒にホールに向かった。  船の中央の辺りにあるホールには、いくつものシャンデリアがつるされており、白い粒みたいな光が降り注いでいるように見えた。  長いテーブルが四卓あり、それらはホールの左右の壁際に二卓ずつ並んでいる。和食、洋食、中華、デザート。名前が分かったり分からなかったり、見たことがあったりなかったりする料理の傍らには、小皿が重ねられていた。  バイキング形式のようで、壁際に並んでいる料理を取ってきて。中央の辺りにおかれている、どこかの丸いテーブルに移動してから食べるみたいだな。
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