6人が本棚に入れています
本棚に追加
「カナデ。こっちを見て」
そうかもしれないが、頭を普段と同じように上手く働かせることができない。絶対に、抵抗しなければいけないのに、されるがままになっている。
もしかしたら、心のどこかでわたしは。
思わず、首を横に振っていた。
「こわがらなくて良いんだよ」
そうじゃないけど、ある意味で今の目つきの悪い彼の返答は。わたしにとって、一番の正解だったのかもしれない。
「ち、違います。そうじゃなくて」
そんな言葉を伝えたかったのに、わたしは受け入れてしまっていた。こちらが、本当に選びたいことなんだろうか?
わたしはミヤシロさんとではなくて、目の前にいる彼と一緒に。
ミヤシロさんとの色々なことで考えすぎたせいか、わたしは熱をだしてしまい数日ほどベッドから起き上がれなかった。
身体のケガと軽い風邪のせいなので、それほど心配する必要はありませんよ。的なことを担当の看護師さんが兄さんに説明していたような気がする。
「カナデ。死なないでくれ」
「いや。ですから、それほど命に別状はありませんので」
わたしは、病室のベッドの上で眠っていたはずなのに。なぜか、兄さんと看護師さんのやり取りが見えていた。多分ですが。
「いやいや、カナデちゃん。そのお兄さんと看護師さんの話は微笑ましくて、それなりに面白い話なんだけど。あたしに相談があるんじゃなかったっけ?」
また着替えをもってきてくれたミオンさんが、わたしと以前に電話で話したことを確認してきている。
「えと、わたしの相談と言うよりは。ミオンさんも知らない友人の話だったりします」
「ふーん。これから話すのは、あたしも知らないカナデちゃんの友人のことなんだね」
うれしそうにパイプ椅子をきしませているので、滞りなく相談するための設定がミオンさんにばれてそうだが。
「でも、その友人さんのことでカナデちゃんも悩んでいるってことだよね?」
「まあ、一応はそうなるかと」
「それじゃあ、カナデちゃんからのはじめての相談って言えなくもないね」
いずれにしても、って感じだった。確かにわたしのほうから、ミオンさんにこんな話をもちかけたのは、はじめてかもしれない。
「普段からドライな感じのカナデちゃんでも悩むことがあるんだ。しかも、お兄さんじゃなくて、あたしに相談してくれるなんて」
知らない間にミオンさんの変なスイッチを押してしまったようで楽しそうにしている。
最初のコメントを投稿しよう!