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「結局、カナデちゃんの好きにしたら良いんだと思うよ。最後は皆、同じところにいくんだからさ」
着替えをもってきてくれた友達のその一言が頭の中で、なん回もくり返し響いている。
真っ暗になっている病室のベッドの上に、寝転がっているのに眠くならない。むしろ、感覚が研ぎすまされているようだった。
天井の本当に細かい汚れが見えていて。
なにかの薬品の奇妙なにおい。
この真っ暗な病室には、他には誰もいないはずなのに視線を向けられている気がする。
落ち着かない。心がざわつく。
そもそも、わたしはどうしたいんだろう。
目つきが悪くて、友達だと思っていた彼に告白をされて。わたしはうれしかったのか?
ま、うれしいことはうれしい。他人に好かれて、いやだなと思うほうが珍しいはずだ。
それに、なかなかの男前さんだし。悪い気はしなかったけど、それと同時に申し訳ないって思いもあったりする。
多分、心の奥底にあるであろう、わたしの願いのせいなんだろうな。
だから悩んでいて、目つきの悪い彼の告白に対しても半ば断るような言葉を使った。
わたしの願いをかなえてくれるのは目つきの悪い彼ではなく。ミヤシロさんのほうだと確信をしている。
それなのに、目つきの悪い彼は諦めてなさそうなことを口にしていたっけな。
やっぱり、わたしは。病室の扉がゆっくりとスライドしていく音が聞こえてきた。
寝ぼけているんだろうか? こんな時間に看護師さんがくるはずないのに。
「カナデ」
微かにだけど、名前を呼ぶ声が左耳のほうから聞こえている。眼帯をしていて、そちらのほうが見えないから。それだけのことだ。
幽霊なんて、存在しない。子どもみたいにこわがり心臓の音が大きくなってきていた。
「ミヤシロさん?」
顔を左のほうに傾けていくとベッドの傍らに立って、わたしを見下ろしているミヤシロさんの姿が。
「おれは、色々と間違っていたかもしれないが。きみを愛していたことにうそはなかったはずだ」
なにかを言っているようだけど、声が小さすぎて聞こえづらい。泣いているのか、ミヤシロさんの真っ黒な目から涙がながれている気がする。
「だからこそ、おれは反省をしていたんだ。きみに会いたい思いを抑えて、ばれないように観察していたのに」
「あの、なにを」
「それなのに、きみは裏切ってしまったんだから。その報いは受けなければならない」
雲に隠れていた月がでてきたのか、病室の窓から光が入って。やっぱり、ミヤシロさんは泣いているようで涙を。
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