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ミヤシロさんの右手には、月の光で刀身を輝かせているナイフを握りしめていた。
「さあ、カナデ。中庭のほうに移動をしようか、ここは少し狭すぎるからね」
ミヤシロさんが握っているナイフに、血がくっついているように見えるのは。わたしの錯覚であることをなんとなく祈っていた。
確か、レコードだったかな。中学生ぐらいの頃に、そんな名前の殺人鬼の手記のようなものを読んだことがあった。
中学生と言えば、恋や遊びの幅が広がってくる時期で。同時に色々と反抗したくなり、いけないことをしたくなるんだと思う。
どこでレコードって殺人鬼のことを知ったのかは忘れてしまったけど。おそらく、その時期に仕入れた情報なんだろうな。
そのレコードが書いたとか言う真っ白な本に書かれていることに対して、ほとんど共感できなかったが。一つだけ、なぜだか覚えているものがあった。
大学生になることができた今のわたしからすれば、それはとてもチープなもので。よくあるテレビドラマの男女の物語だったが。
当時のわたしにとって、その物語は鮮烈で確実に頭の中のなにかを。
「ミヤシロさんが、殺しちゃったの?」
病室をでて、ミヤシロさんと一緒に中庭のほうへと歩いていると。壁にもたれかかって座りこんでいる看護師さんが、胸の辺りから血をながしているのが見えた。
「ああ。けど、ささいなことだし。カナデが気にする必要はないよ」
どうして中学生の頃のことを思いだすのか不思議だったが。その時に読んだあの真っ白な本のチープな男女の物語と似ているんだ。
「なんで?」
「愛し合っているおれとカナデが会うことを邪魔したからだけど。それ以外に理由なんてあったりするのか」
「ううん。わたしも、ないと思う」
「ふふ、やっぱり。おれとカナデはこれ以上ないくらいに両思いなようだね」
でも、あの目つきの悪い男の報いはきちんとカナデに受けてもらうから。普段と同じ、ミヤシロさんの冷たい声が響いている。
真っ白な本に書かれていた、あの主人公であろう女性も今のわたしと同じ気分だったのかもしれないな。
確か、彼女にもわたしと同じで彼氏がいたんだっけな。しかも同じように日常的に暴力を振るわれていた。
わたしや彼女以外の人間からすれば、それはただの最悪な要素で。そんなものがあってはいけないことを分かっているけど。
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