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おそらく、真っ白な本に書かれていた彼女にとっても。その最悪な要素だけが、自分を愛してくれている。
いや。ミヤシロさんから愛情を向けられていると確信をすることができた。
だから、真っ白な本に書かれている彼女が物語の中盤で。完璧に愛してくれていた男性を殺してしまったところを読んだ時は。
この女、頭が可笑しいんじゃないの? と思わず声にだしてしまったっけ。
愛していた男性に、あれほど熱烈に暴力を振るわれていたのに。どうして? 中盤までを読んだわたしはそう思っていたが、物語の最後のほうで語られた女性の思いに、共感をしない訳にはいかない。
涙をながしつつ、これこそが本当の恋愛に違いないと、わたしは本能で理解していた。
それなのに。
「ほら、ここで裸になるんだ。そして、あの目つきの悪いやつと病室でキスしていたことをさ。その軽い頭を地面にこすりつけて謝るんだよ」
わたしと目の前にいるミヤシロさんだけはそんな尊い関係だったはずなのに。この中庭にきたことで壊れてしまった。
思わず、ため息もでてしまっている。
「こんなていど、だったのか」
「は?」
わたしの目の前に立っている、とても期待外れだったものは耳も悪いようだな。どちらにしても、あの目つきの悪い男性。確か名前はなんだったかな?
そうそうヤハギくんだ。彼のあの性格ならば、わたしの教育でさらに上位の存在に進化することができる。
それに、なにより目の前の期待外れよりも男前さんだし。わたし的にも、暴力を振るわれる、いや。愛を育んでくれる相手としても申し分ない。
「あの看護師、確かミゴリさんだったっけな? が言っていたことも本当みたいだし」
どうして、こんな期待外れの顔が頭に浮かんできたのか不思議でならない。けど、もうなおったみたいだな。
今、わたしの頭の中には男前さんのヤハギくんの顔しか浮かんでこない。これ以上ないくらいに正常だ。
だから。
「きれいに別れましょう。期待外れくん」
けど、期待外れとは言え他の女に取られるのも面白くない。勘違いだったが、わたしを本気で愛そうとしてくれたのは本当だった。
「それに、お腹も空いてきたところだし」
病院食は量が少ないからな。
そう言えば真っ白な本に書かれている女性も、愛していた男性を。
「まあ、わたしが体験したことではないので彼女の思いは分からないんですけど。そんな感じなんだと」
「なにが、そんな感じなんだ?」
病室のベッドの傍らでパイプ椅子に座っているミヤシロさんがわたしを真剣に見つめている。
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