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ミヤシロさんが帰った後。なぜか、わたしは中庭のほうへときていた。熱くなっていた頬が、風で少しずつ冷やされていくのはなんとも言えない。
「また悩みごとですか?」
中庭にある屋根つきのベンチに座っていると、この前の赤い髪の看護師さんが。確か、そうそうヤハギさんだったな。
「看護師の名前なんて覚える必要もなさそうですけどね」
わたしが胸の辺りにくっつけている名札を見ていたことが分かったのか、ヤハギさんがそう言っている。
「目についただけなので名前を覚えるつもりはなかったです。その、ごめんなさい」
「謝る理由もありませんし、それが普通なんですよ。病院はケガや病気をした人達がくるところなんですから。看護師の名前を覚えるほど通われても大変ですので」
「それもそうですね」
そんな忙しい看護師さんだからこそ、サボタージュでもしたくなったのか。わたしの隣にヤハギさんが座っていた。
「それより、あのもじゃもじゃ男前さんとの関係はどうなったんでしょうか?」
見られていたらしい。どこからだろう? 今のところ、わたしは誰ともつき合ってないんだから後ろめたいことはないはずなのに。
「その、お断りさせてもらいました」
なんだか声が震えてしまっている。
心臓の音が、普段よりも大きくなっているような気がして両足に上手く力が入っていかない。
「やっぱり、もじゃもじゃが?」
「いえ。別に、相手がもじゃもじゃでも良いんですけど」
うん。でも、改めて考えてみると。わたしはどうしてツチウラくんを選ぼうとしているんだろうな。
見た目はそれほど気にしてないようだし。
共通の趣味があるから? それもツチウラくんだけじゃなく、リンソウ大学の生徒だけでも該当する男性はなん人もいるはず。
だったら、どうしてわたしはツチウラくんじゃないと駄目と思っているんだろうか?
もしかしたら、もっと他にも。
「それは、愛ですよ」
また、わたしの表情から考えていることを読み取ったのかヤハギさんがそんな風に唇を動かしている。
「愛ですか」
「そうです。ためらってはいけません」
なにかの歌みたいな台詞を、ヤハギさんが口にしていた。
「かつて、わたしもお嬢さんぐらいの時に。同じように二人の男性から告白をされたことがあったんですよ」
「ほう、もてもてですね」
「ええ、もてもてでした。けど同時にかなり悩みましたね。どちらを選んでも、片っぽを振らなければなりませんので」
その時のことを頭の中で浮かべているようで。ヤハギさんは目をつぶり、なん回も首を縦に振っている。
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