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「その、ヤハギさんはどちらを選んだんですか? なにか理由とか」
目を開いたヤハギさんがわたしの顔をじーっと見つめていた。
「顔で選びました」
「見た目は大切ですよね」
別に見た目で選んでも変ではないと思っているのに。なんだろう? ヤハギさんの話をとてもうそっぽく感じてしまう。
「ま、それは半分くらい冗談ですが」
「半分は本気なんですね」
「その当時、わたしも入院をしていて赤い髪の看護師さんに恋のアドバイスをしてもらったんです」
わたしが髪を赤く染めているのはその看護師さんに感謝しているからだと思いますね。と、自分のことなのにヤハギさんは、どこか他人ごとのように言っていた。
「それで、赤い髪の看護師さんからはどんなアドバイスをもらったんですか?」
「頭の中に浮かんでくる異性はいますか? でしたね」
「頭の中に」
そう言えば、家で監禁をされている時に。たまにツチウラくんの顔が頭の中に浮かんでいた気がする。
ここでわたしが死んだら、怒っちゃうかもしれないな。とか考えていたっけ、確か。
「その意中の男性、頭に浮かんできたことがありますか?」
「浮かんではいますけど。なんだか、怒られそうなイメージしかないですね。わたしが、色々と危なっかしいから」
「そうですか。でも、それがお嬢さんの本音なんだと思いますよ」
話すべきかどうか迷っているのか、ヤハギさんが唇をうねらせている。しばらくすると決心したようでわたしに笑顔を向けてきた。
「その意中の男性が全く同じタイプか分かりませんが、お嬢さんの本音をぶつけてみるのも良いかもしれませんね」
ヤハギさんから聞いた訳ではないのにその言葉を聞かされて。わたしはなんとなく同じようなタイプの人間なんじゃないかと。
「もしかして、ヤハギさんも」
いや、これ以上は野暮か。どちらにしてもそのことを聞いた時点で、わたしは殺されてしまうような感じがする。
殺されることは、それほど悪くないが。
「わたしが、どうかしましたか?」
「その、もしかしてヤハギさんも当時の意中の相手に自分の全てをぶつけたんですか? と聞きたかったんです」
「ああ。ええ、そうですね。今のお嬢さんと同じように色々とためらったりもしたんですが。彼にだけは、うそをつきたくなかったんだと思いますね」
わたしはヤハギさんを知らないが。多分、言えないようなことを色々としたんだろう。
人を殺してしまったか、食べたのかは知らないけど。それでも今のヤハギさんをわたしはどこか美しいと感じている。
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