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「ダンディシガーを食べたくなってね。それよりも、入院していたはずでは?」
「もう、なおりました」
「そうか」
隣に座ったら? 的な視線をツチウラくんがこちらに向けていた。遠慮するほど体力が残ってないので腰をかけさせてもらう。
「はしってきたのか?」
「そうですね。とても疲れました」
「なんで?」
「青春をしたくなりました」
「ふーん」
「笑うところなんですけどね」
なんて言いつつも、ツチウラくんもわたしもこの後に起こるであろうことは大体、すでに分かっていた。
結果が分かっているのに、それができないと言うのも変な話だけど。多分、これをきんちょうって表現するべきなんだろうな。
「よく、ここにいるって分かったな」
「ここくらいしか思いつかなかったので」
「その割には疲れているように見えるが?」
「全力ではしったのは久しぶりですからね」
ツチウラくんがわたしの手を握ってきた。
びっくりして身体をびくつかせてしまったが、いやな感じはしない。むしろ、もっと。
「悪いな」
「いえ。結果は分かっていますし」
「そうだけど、順番的にはそっちが完了してからじゃないと」
あんまり、こちらのほうからこんなことをするべきじゃないのかもしれないが。
わたしは、油断しているツチウラくんの唇にキスをしていた。まぎれもなく誰でもない自分の意志で。
「好き、です」
他にも色々と言いたいことはあったと思うんだけど、わたしの口からでてきてくれたのはそれだけだった。
「おう」
「主語は、ツチウラくんです」
「分かっているよ」
「だから、わたしを」
「殺してくれませんか? だろう」
顔を赤くしているであろうわたしの言葉を先に口にして、ツチウラくんがゆっくりと唇を押しつけてきている。
「おれも、カナデが好きだ」
「はい」
「だから、おれ以外の人間に」
「分かってますよ、ヤキリくん」
自分が正しくないことは分かっているが、それでもなにかを選ぶ権利だけはあるとするなら、わたしは。
「わたしは今のところ、この世界で一番好きなヤキリくん以外の誰かに殺されるつもりはありません」
「それでも良い。カナデがおれと一緒にいてくれるのなら」
「ちゃんと、殺してくれますよね?」
「ああ。約束する」
失敗した福笑いみたいな顔つきをしているヤキリくんに、また優しくキスを。
「うそつき」
「お互いさまだ」
それでも、そんなうそつきな男の子と一緒にいられることが幸せなんだろう。
「えへへ」
はにかむように、わたしは笑っていた。
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