ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 前編

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「耳? なんのことですか?」 「カナデちゃんが耳を触られるのが弱点って話だね」 「そんなことは言ってなかったような」 「それなら、シクラにカナデちゃんのやわらかい頬を触らせてあげてほしいな」  後ろから抱きしめられていて、ミオンさんの顔は見えづらいけど、楽しそうにしていると思う。 「頬ですよ、ミヤシロさん」 「分かっているって」  触られる、とは分かっていても。きんちょうしてしまうようで頬が熱くなっている気がする。 「カナデちゃん、もっとリラックスして」  なんて、ミオンさんに言われているけど。ミヤシロさんの大きな手が、耳を触らないか不安でリラックスできそうになかった。  ミヤシロさんに頬を触られた後、わたしは反対側にある洋食コーナーのほうに向かっていた。 「あー、カナデちゃん。待って待って」  後ろからミオンさんの声が聞こえるが待つつもりはないようで、振り向こうとも思ってない。なん回か、わたしの名前を呼んでいたけど、怒ってしまったんだろうと判断されたらしく、静かになって。 「オツノちゃん。こっちこっち」  ホールの中央の辺りにおかれてるテーブルをすり抜けていると、タカセくんが手招きをしつつ、声を上げている。  テーブルの上にワインやら料理を並べて、他のメンバーと談笑しているみたいだった。一応、挨拶くらいはしておくべきか。 「こちらはオツノカナデさん。ヤキリと同じリンソウ大学の学生さんだな」  テーブルに近寄ると、タカセくんが勝手に紹介をしてくれたので会釈だけした。そんな彼を挟むように男女が一人ずつ座っている。  男性はツチウラヤキリ。わたしと同じリンソウ大学の学生。髪が白く、目つきが悪い。  目つきが悪いのは生まれつきのもののようで。怒っている訳ではないから、気軽に話しかけてくれ的なことを本人が口にしている。けど、気のせいかもしれないが他の人を見ている時よりも、こちらへの視線は鋭い気が。  どこかで、わたしと会ったことでもあるんだろうか?  女性のほうはアカイエミ。海外で活躍している女優さんらしいけど、日本ではそれほど名前が知れ渡ってないのを理由に今回のパーティに参加したとかなんとか。  わたしの邪推かもしれないが、なんとなく用意された設定のような違和感があった。  そんなアカイさんの髪と瞳は赤く、日本人ばなれをした顔立ち。胸もとの大きく開いた真っ赤なワンピースに白いレースのカーディガンを羽織っている。赤いものが好きみたいだけど飲んでいるワインは白だった。 「さ、オツノちゃんも座りなよ」  そう言いつつ、タカセくんが自分の向かいにある椅子を引いてくれている。  アカイさんとツチウラくんにそれぞれ会釈をしてから椅子に座ると、ウェイターさんがワイングラスを持ってきてくれた。
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