ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 前編

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「オツノさんも飲む?」  アカイさんが高価そうなボトルをもち上げながら笑みを浮かべている。もしかしたら、すでに酔っているのかもしれないな。 「それとも、まだ飲めない年頃かしら?」  わたしが童顔なので、年齢が分かりにくいのか、アカイさんが首を傾げている。 「一応、二十歳です。飲めます」 「そう。ごめんね」  目の前におかれているワイングラスに透明な液体が満たされていく。不思議なことに、時間が経つにつれて色合いが変化している。  はじめは寒色だったのに、少しずつ暖色になり、また青っぽい色になっていった。  そんな風に目を楽しませてもらいながら、ゆっくりと口に含んだ。甘味が強く、とても飲みやすい。 「ふふっ。もう一回、飲んでみて」  そう、アカイさんに言われるがままに飲んでみる。一口目とは違い酸味が強く、しゅわしゅわと泡のようなものが弾けていた。  お酒はあんまり好きではないのだが。飲むたびに味が変わるので、ついついグラスを傾けてしまう。 「いけるねー。オツノちゃん」  向かいに座っている、左右にぐにゃぐにゃしているタカセくんが手を叩いていた。 「少し辛いけど、このチーズがとても合うのよ。そのお酒」  一口大に切り分けられた赤っぽいチーズをアカイさんがわたしの前に移動させてくれている。  傍らに、おかれてる金属製の爪楊枝を赤っぽいチーズをつき刺し、口に入れた。  ぴりッとした辛さの後に、ほんのりと甘味が広がっていく。舌が、目の前のお酒をほしがっている。  勝手に、指先がワイングラスをつかむと、唇に触れさせて透明な液体を口の中にながしこんでいた。  頭がふわついているせいか、知らない間にワイングラスが空になっている。  頬が熱くなってきていた。椅子にもたれているのに、身体が浮いているみたいな感覚。  欠伸もしてないのに、どこか眠たい。このままだと目をつぶってしまい。  頬に冷たいものが触れた気がする。薄く目を開くと、アカイさんの顔が近くにあった。 「平気?」  心配そうにそう言いながら、アカイさんが右手をはわせている。ひんやりとしていて、変だけど血が通ってないような。 「お水、もらえるかしら?」  アカイさんがウェイターさんに水をもってくるように、もう届いたみたいだ。 「飲める? オツノさん」  うなずき、グラスに入っている水を少しずつ口の中にながしこんでいく。  酔いが醒めてきているのか、頭のふわつきがなくなってきている気がするけど。まだ、ほのかに頬が熱かった。 「あーあ。せっかく、良い感じだったのに」  なにが良い感じだったのかは分からないが不満そうな顔つきをしているタカセくん。
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