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「んー、オツノさんはきれいな肌をしているな、と思って。なにかしているのかしら?」
「特には」
「うらやましいわ」
アカイさんが自分のワイングラスを傾けている。色気があると言うのか、わたしをうらやましがるほど酷い肌ではないような。
「アカイさんは女優さんなので、色々としているんですか?」
「そうね。女優に限らず、女って生きものは色々と着飾ると思うけど。オツノさんはそうじゃないのかしら?」
「それは、アカイさんみたいにきれいな人がやるからこそ効果があるんだと思いますよ」
「消極的ね。わたしが男だったら」
アカイさんがわたしの手を握りしめながら頬をなめてきた。やわらかく、ざらっとした舌の感触が伝わってきていた。
もしも汗の味を確かめられていたら、色々と大変かもしれないな。
「こんな風にオツノさんを自分のものにしてしまおうと思うけどな」
「それは光栄ですね」
ミオンさんもやっていたけど、最近こんな感じの悪戯がはやっているのか。
「オツノさんは、ネコちゃんっぽいわね」
しばらく、指相撲でもしているみたいにアカイさんと両手を握り合っていると、そんなことを言われた。
「ほめ言葉、ですか?」
「ある意味では、そうね。そんな表情をしているから、可愛い反応をさせたくなると思うわね」
なんのことを言っているのかは分からないけど、なんとなくこの話を続けるのは問題があるような気がする。
「アカイさん。個人的にはそれ以上その話をするのは悪趣味かと」
と、ツチウラくんが口にしている。悪趣味と言っているんだから、良くない話題だったんだろう。
「それもそうね」
アカイさんが、わたしの耳もとに唇を近づけてきた。相手は同性なのに、なまめかしく息づかいをしているせいか、心臓の音が普段よりも大きくなっている。
この感覚は、わたしにとって。
アカイさんが耳もとでわたしにしか聞こえないように注意しつつ。ささやいている言葉に対して、思わず笑いそうになってしまう。
「確かに。アカイさんの言う通りですね」
本当はもう少しだけアカイさんに聞きたいことがあった気もするけど。もしかしたら、って可能性もあるのでやめておいた。
「それじゃあ、また後でね。オツノさん」
そう言いながら立ち上がると、アカイさんはタカセくんとツチウラくんにそれぞれ一礼をしてから洋食コーナーのほうに向かった。
「なんの話?」
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