ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 前編

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「えっと、み」  もう一回。名前を呼ぼうとするのと、ほとんど同時にミオンさんが背中のほうからわたしにくっついて。 「温もりがほしい」  後ろから抱きついているミオンさんが頬ずりをしつつ、耳もとで言っている。 「そう、ですか」  また男性に振られたみたいだな。呼び名のことも、その影響なんだろうな。  ミオンさんは同じ大学に通っている一つ年上のお姉さんで。見た目はロリータなのに身長がかなり高い。そのアンバランスさが個人的には好きなのだが、男性には悪いらしい。 「ありがと。カナデちゃん」  ただ抱きつかれたままで、なにもしてないような気もするのだが。それだけで良かったみたいだな。 「豪勢な朝食のお礼ですから、気にしない気にしない」  そんなことを言いつつミオンさんからはなれて、向かい合うように身体を向けた。 「へへ。こんなので良ければ、毎日でも用意してあげるけど?」 「本当ですか。それじゃ、結婚しましょう」  ミオンさんの両手を力強く握りしめて、本当に愛の告白でもしているかのように笑みを浮かべてみた。こんな感じの悪戯をすることがあるんだから、これくらいのうそをついたとしても。 「それも良いかもしれないね」  そう言いながら、ミオンさんが自分の唇をなめている。わたしのうそは、ばれていたっぽい。 「あたしにうそをつくなんて、悪い子だな。カナデちゃんは」  握りしめていた両手を引っぱられて、ミオンさんのほうに身体が傾いてしまう。  脳が勝手にバランスをとろうと考えたようで、ミオンさんの両手をはなして、そのお腹のほうに。 「おっと、ふふん。カナデちゃんは小さいね」  ミオンさんに正面から抱きしめられてしまった。なんとか逃げようとしたが背中を優しく押さえつけられている。 「逃がさないよ」  背中を触っていた左手がわたしの左肩をつかみ、逃げられないようにしていた。 「んー、カナデちゃんはあんまり、いじめがいがないね」  一般的な女の子なら、こんな風に抱きしめられた場合、それなりにリアクションをするからだろう。 「でも、そんなところが好き」  ミオンさんは少し変わっているので、わたしみたいになんの反応もないほうがうれしいみたいだな。 「えと、くすぐったいですよ」  そう、わたしはつぶやいていた。自分でも分かるくらいに棒読みだったけど。 「ひんやりしてるね、カナデちゃん」  体温のことだけ、なんだろうか? こんなことを考えている時点で、やっぱりわたしは。
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