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「えっと、み」
もう一回。名前を呼ぼうとするのと、ほとんど同時にミオンさんが背中のほうからわたしにくっついて。
「温もりがほしい」
後ろから抱きついているミオンさんが頬ずりをしつつ、耳もとで言っている。
「そう、ですか」
また男性に振られたみたいだな。呼び名のことも、その影響なんだろうな。
ミオンさんは同じ大学に通っている一つ年上のお姉さんで。見た目はロリータなのに身長がかなり高い。そのアンバランスさが個人的には好きなのだが、男性には悪いらしい。
「ありがと。カナデちゃん」
ただ抱きつかれたままで、なにもしてないような気もするのだが。それだけで良かったみたいだな。
「豪勢な朝食のお礼ですから、気にしない気にしない」
そんなことを言いつつミオンさんからはなれて、向かい合うように身体を向けた。
「へへ。こんなので良ければ、毎日でも用意してあげるけど?」
「本当ですか。それじゃ、結婚しましょう」
ミオンさんの両手を力強く握りしめて、本当に愛の告白でもしているかのように笑みを浮かべてみた。こんな感じの悪戯をすることがあるんだから、これくらいのうそをついたとしても。
「それも良いかもしれないね」
そう言いながら、ミオンさんが自分の唇をなめている。わたしのうそは、ばれていたっぽい。
「あたしにうそをつくなんて、悪い子だな。カナデちゃんは」
握りしめていた両手を引っぱられて、ミオンさんのほうに身体が傾いてしまう。
脳が勝手にバランスをとろうと考えたようで、ミオンさんの両手をはなして、そのお腹のほうに。
「おっと、ふふん。カナデちゃんは小さいね」
ミオンさんに正面から抱きしめられてしまった。なんとか逃げようとしたが背中を優しく押さえつけられている。
「逃がさないよ」
背中を触っていた左手がわたしの左肩をつかみ、逃げられないようにしていた。
「んー、カナデちゃんはあんまり、いじめがいがないね」
一般的な女の子なら、こんな風に抱きしめられた場合、それなりにリアクションをするからだろう。
「でも、そんなところが好き」
ミオンさんは少し変わっているので、わたしみたいになんの反応もないほうがうれしいみたいだな。
「えと、くすぐったいですよ」
そう、わたしはつぶやいていた。自分でも分かるくらいに棒読みだったけど。
「ひんやりしてるね、カナデちゃん」
体温のことだけ、なんだろうか? こんなことを考えている時点で、やっぱりわたしは。
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