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それとも、おれに近くで見られるのが恥ずかしいのか? とソファーに座っているツチウラくんがあおるように唇を動かしている。
最下位だし、近くで話をすることは常識的な範囲の命令だろう。それにどことなくツチウラくんは。
「隣に座るんだな」
隣に座っているわたしを見下ろしながら、ツチウラくんが意外そうな顔をしている。
「一応、明日の夕食までは召し使いって設定ですし。こっちのほうが話しやすいかと」
「なるほどな」
目の前のテーブルの上においてあったコーヒーカップを傾けているツチウラくん。なんとなく、飲んでいる姿を横から見ていると。
「タカセから聞いたんだがオツノさんはカシハラと知り合いだとか?」
そんなことを聞いてきた。普段から目つきが悪いのにさらに鋭くなっている。まるで、なにかの尋問をされているような。
「一応、そうみたいですね」
わたしも自分の分のコーヒーを、口の中に少しずつながしこんでいく。
「一応?」
「たまにあることなんですが、わたしは意外と忘れっぽい性格で」
ツチウラくんに、数日前のカシハラくんのことを忘れていて連絡先などを交換した経緯を説明した。
「ふーん、そうだったのか」
わたしの話を聞きおえると、ツチウラくんの目つきがもとに戻り。
「にらみつけたりして、悪かったな」
と怒っているような顔で言われた。いや。普段通りなのか、人相が悪いのも色々と問題があるんだな。
「うそをつくのは、あんまりほめられたものではないがな」
「なんのことでしょうか?」
あらぬ疑いをかけられて、動揺をしているわたしの姿が面白いのかツチウラくんが笑みを浮かべている。
「今、言った通りだ。おれの隣に座っているチャイナドレスの女の子がうそをついているって話だよ」
「ナース服に着替えてきます」
部屋のはしっこにあるクローゼットのほうに移動しようとすると。
「命令」
ツチウラくんがそう言ってきた。
「分かりました」
ソファーから立ち上がったが、すぐに座りなおすことに。どうやらツチウラくんはチャイナドレスをこよなく愛しているらしい。
「隣に座っている男性はひらひらが好きなんですね」
「ああ。チャイナドレスの重要なところでもあるしな」
「人の心を読まないでくれますか」
「面白いことを考えたりするからだ。おれはどこにでもいる普通の男だ、チャイナドレスを愛したりはしてない」
普通の人は、相手の顔を見ても考えていることは分かりませんよ。と軽くつっこんでおいた。
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