ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 中編

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「それもそうだな。悪かったよ」  面白いことを言ったつもりはないのだが、ツチウラくんが楽しそうにしている。でも、目つきが悪いので失敗した福笑いみたいな顔になっていた。 「冗談はさておき。うそをつかずに、質問に答えてくれるか? オツノさん」 「はい。分かりました」  今まで、うそをついたことがないような気もするが、わたしの主人であるツチウラくんの命令だからな。 「夕食の後でやった推理ゲーム、本当はすぐに答えが分かっていたんじゃないのか?」 「そんなことないですよ。仮に、そうだったとしても、わたしになにかしらのメリットがあるようには」 「メリットならあるだろう。このおれと二人きりになれているんだから」  ふっ。多分、ぼけてくれているんだと思うけど、ここで笑うのは失礼に。 「それも、そうですね」 「身体を震わせて、どうかしたのか?」 「な、なんでもないです」 「ダウトだな。うそをつかないって、約束をしたはずだが」  ツチウラくんがわたしの顔をのぞきこんでいる。目つきこそ悪いが見てくれが良いからか、のけ反るようにソファーにもたれかかってしまった。  考えてみれば、兄さん以外の男性とこんな風に部屋で二人きりで話をすることは、あんまりなかったような。 「真面目な話をしている訳じゃないんだし、笑いたい時は笑って良いんだぞ。失敗をした福笑いみたいな顔ですね、とか」 「えっと、それはこわかったです」 「そうか。だったら、このおれと二人きりになれているメリットのことは」  我慢しているせいか身体が震えてしまう。ツチウラくんから目を逸らそうとしたが。 「こっちを見ろ」  と、命令された。 「おれの質問には、うそをつかないで答えてくれるんじゃなかったのか?」 「そうでしたね」  ツチウラくんと目を合わせて、思わず笑いそうになったのを伝えながら。わたしの頭は全く別のことを考えている。  それは。  知らない間に眠っていたようで、わたしはベッドの上に寝転んでいた。軽く伸びをしてから上半身を起こすと窓から入っている白い光が顔に当たり、目を細めてしまう。  窓から見える、海や空はそれなりに絶景で朝から良い気分にさせてくれている。 「やっと起きたか」  男性の声が聞こえてきたほうに振り向くとソファーに座っているツチウラくんがこちらを見ていた。 「こんな時は叫んだほうが良いんですか?」 「そんな質問をしてくる女性はそもそも叫んだりしないと思うんだが」 「それもそうですね。おはようございます」  頭を下げると、ツチウラくんも同じ動きをしながら。ああ、おはよう。と言葉を返してくれている。
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