ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 中編

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「はやいんですね、起きるの」 「神経が細いだけだよ」  ツチウラくんがさらになにかを言いたそうな顔をしていたけど、だまったままだった。 「朝になったんですから、もう自分の部屋に戻っても良いですよね?」  わたしが、今の台詞を口にすることが意外だったようで、ツチウラくんが目を見開いていた。 「この船にいる時点で同じ穴のムジナみたいなものだからな」  多分、わたしに聞こえないくらいの音量で独り言をつぶやいてから。 「ああ。どうせ、今晩もオツノさんとは会えるんだからな」  ツチウラくんは奇妙な予言をしていた。 「可能性が全くないとは、言えませんね」 「おれの予言を信じてないのか。だったら」 「博打なら、やりませんよ。わたしが負けるのは確実なんですから」  手もとに鏡がないので分からないが怒っている風に言ったつもりなのにツチウラくんは笑っている。まるで、その言葉を聞きたかったんだ、とでも言いたそうに。 「確実に負けられるのは必勝と同じ意味だと思うんだが?」 「理屈は分かりますけど、ほとんど言葉遊びかと。それに今回の確実に負けるは、ギャンブルが弱いって意味ですからね」  確かに、オツノさんはギャンブルが弱そうな顔をしているな。と、ツチウラくんが口にしていた。  失礼なのかどうかはさておき、ギャンブルに弱い顔ってどんなのだろう? 「そうだ。オツノさんに、もう一つだけ聞きたいことがあったんだった」  シャワーを浴びさせてもらい、服を着替えてからツチウラくんと向かい合わせに座るとコーヒーを入れてくれた。 「質問、好きですね。そんなにわたしに興味があるんですか?」 「大抵の男は魅力的な女性のことを少しでも知りたいと思うからな」  そんな冗談を言った後に。 「この船に知り合いは、なん人いたんだ?」  そう、ツチウラくんが聞いてきた。なんとなく昨夜の質問とは毛色が違うような気が。 「えっと、この船にのる前だったら三人ですかね」  ミオンさん、カシハラくん、カミシロさんの三人。そのうちの一人はこの船に招待してくれるまで忘れていたから数に入れないほうが良いのかもしれないけど。 「そうか。変な質問をして、悪かったな」 「いえ。こちらは別に」  今日の夕食まではツチウラくんの召し使いなので真面目に答えたつもりなのだが、なにか思わしくないことでもあったのかな。 「あの、ツチウラくん」 「ん。なんだ?」 「ツチウラくんの入れてくれたコーヒーは、美味しいので。今日も、夕食の後のゲームで一位になれたら」 「おれにほれてくれたのか?」 「違います」  楽しそうに笑っているツチウラくんが。
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