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「心配しなくても、誰かさんが確実に最下位になってくれるからな。おれが他のメンバーに負ける理由はないな」
そう言っている。確実に、最下位になってくれる人が誰かは分からないけど自信があるらしい。
「はあ。そうですか」
そんな心配をしているつもりはなかったのだが、否定をするほどでもないしな。
「それに、昨夜のミステリー小説の話の続きもしたいと思っていたりして」
「今、その続きを話しても良いですよ」
「うれしい言葉だが、やめておこう。今晩もオツノさんが部屋にくるんだから、仮眠しておかないと」
ツチウラくんが欠伸をしている。
「ごめんなさい。わたしがベッドを」
「相変わらずなんだな、オツノさんは」
謝ろうとすると、ツチウラくんは小さな声でなにかを言っていた。聞こえづらかったので、耳を傾けていると。
「気にしなくて良い、もともと眠るのが苦手なんだ。むしろ、昨夜はオツノさんと会話ができてリラックスできたからな」
先ほどの台詞とは違うような気もするが、ツチウラくんが寝不足なのは本当のことみたいだし。これ以上、邪魔をする訳にはいかないか。
「えっと、それじゃあ気をつけて」
入れてもらったコーヒーを飲み干し、別れの挨拶をした。けど、自分で思っているよりも慌てていたようで変な感じの言葉に。
「ああ。オツノさんこそ、気をつけてな」
ツチウラくんの部屋をでて、扉を閉めようとすると。
「昼間は心配ないだろうけどな」
部屋の中からそんな言葉が聞こえていた。わたしにはその台詞の意味がさっぱり分からなかった。
自分の部屋で服を着替えてから眠気覚ましにデッキに向かうことにした。かたそうな扉を開けると、肌を優しく撫でるような冷やっこい風が顔に当たっていき。黒髪をつかんでいるかのように、右へ左へともてあそばれてしまっている。
手で押さえつけても上手にすり抜け、毛先がなびいてしまう。風に遊ばれているのを気にしながら、辺りを歩いていると焼けこげている板を見つけた。
きれいに拭き取ったような後はあるけど、かなり目立つ。煙草を落としちゃったのかもしれないな。でも、船の中に喫煙室があったような?
女性だったら煙草を吸っているのを秘密にしておきたい、って考えかたもあるのかな。
焼けこげている板のことを、頭の外に追いだしつつ、船縁に近づくと派手に汚れている部分があった。
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