ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 中編

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「オツノちゃん、ごめんね。だってさ」 「そうですか。ミオンさんのほうも用があるみたいで断られましたね」  なんとなく、このまま二人だけで朝ご飯を食べるのは気まずい感じがしたので、それとなく断ろうとすると。  わたしのお腹から大きな音がした。  中学の時のあだ名とは別に、腹の虫なんてつけられたら。 「ぐー」  カシハラくんが先ほどのわたしのお腹の音を真似しているのかそんな声をだしていた。 「ぼくの腹の虫も鳴いちゃっているし、このまま一緒に食べませんか? オツノさん」  頬を赤くさせながらデートの誘いでもしているかのように恥ずかしそうに言っている。  別に、断っても良かったんだとは思うが。そうした場合、この逃げられない船の上で、カシハラくんと顔を合わせるたびに罪悪感のようなものが。 「そうですね。会話をしながら食べるのも、楽しそうですし」  それに夜じゃないんだから、タカセくんの忠告を破ったことにはならないだろう。  レストランの中に入ると、どこからか木のにおいがしてきた。洋風で、お洒落であろう空間を歩き、背もたれのない木製の丸い椅子に座る。  木製のテーブルの上に立てかけられているメニュー表の横にはドングリをかじっている木彫りのリスがあぐらをかいていた。  他にも木彫りの生きもの達がわたしとカシハラくんを歓迎しているかのようにこちらを見つめていたり。 「オツノさんは食べたいものとかあるの?」  窓の近くにある、今にも飛び立ってしまいそうな木彫りの鳥を見ているとカシハラくんが声をかけていた。  少し夢中になっていて、なにを言ったのかは分からなかったがメニュー表を開いているので注文の話だろう。 「きらいな食べものはないですよ」 「オツノさんは朝が弱いんだね」  目の下にくまでもできていたのか、吸血鬼と同じ弱点があると勘違いをされてしまったみたいだ。 「えっと、そうですね。あんまり得意なほうではないかと」 「夜のほうが楽しいよね」  なにかを思いだしたのか、カシハラくんが笑っている。けど、先ほどの女の子のような可愛らしいものではなく、どこか。 「そう言えば、オツノさんはツチウラの命令で一緒の部屋にいたんだよね。変なこととかされなかった?」 「変なこと、ですか」  チャイナドレスを着るように命令されたが裸で部屋をうろつくほうが変だろうしな。 「可愛らしい服を着て、ミステリー小説の話をしていたくらいですかね」 「可愛らしい服?」 「正確には、チャイナドレスですね。部屋のはしっこにクローゼットがあって、その中にそんな感じの服が色々と」 「オツノさんは、ツチウラが好きなの?」
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