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三階のレストランをでて、軽い運動がてら遠回りをしながら。わたしとカシハラくんは一階の図書室にきていた。
図書室だから当たり前なのだが、壁の全てが本棚で埋まっている。壮観と言えば聞こえは良いけど、転覆してしまった時に戻すのが大変そうだな。
「なにか面白いことでも考えているの?」
天井のほうにある本は人気がないものなんだろうな、と思いながら見上げていると隣に立っているカシハラくんが声をかけてきた。
「ここの本棚は、あいうえお順なのかな? と思いまして」
ぼけたつもりはなかったのだが、カシハラくん的には面白かったようで笑っている。
「どうだろうね。もしも、オツノさんの読みたい本が手の届かないようなところにあったとしたら、どうするつもりなの?」
なにかの心理テストみたいな質問に。
「わたしの手の届く範囲にある、似たような本で我慢をしますかね」
わたしは、そう答えていた。
その労力に見合うだけの本なら惜しまないだろうけど、基本的にはそんなスタンスか。
「オツノさんは自分の手の届く範囲にほしいものがあったら全力で取りにいくタイプなんだね」
楽観的と言うのか、カシハラくんはかなりポジティブなんだろうな。
「カシハラくんは良い人ですね」
そう口にしてから、もしかしたら悪口だと思われるかもしれないな。と考えたのだが。
「いや。ぼくは悪い人だよ」
女の子みたいに笑っているカシハラくんが唇を動かしている。
「だって、オツノさんをかなり強引に図書室に連れてきているんだからさ」
「それもそうですね」
もしかして、怒っていたりする? とカシハラくんがわたしの顔をのぞきこんできた。
「怒ってませんよ」
「それなら、これは」
カシハラくんが、わたしの手を軽く握っている。きんちょうでもしているのか冷たくて震えているような気がするな。
「意外と平気そうだね。異性に触られるのが苦手って聞いたことがあるんだけどね」
「兄さんがいるので、そのおかげかと」
オツノさんのお兄さんだから、多分クールな人なんだろうね。カシハラくんにお世辞のようなことを言われ、苦笑いをしておいた。
普段の兄さんはクールなのかもしれないがそんなところを見たことがないからな。今の状況を見たら、きげんが悪くなるのは間違いないけど。
「手をつないだままだと、探しづらいよね」
カシハラくんが手をはなして、しばらくの間。わたしの顔を見ていたが特に反応がないからか、息をはきだしている。
普通の女性は男性に触られるのが苦手とかなんとか言っていたし、心配でもされていたんだろうな。
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