ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 中編

16/22
前へ
/110ページ
次へ
「わたしには兄さんがいるので。手を握られたりするのは平気なほうですよ」  耳とか以外なら、は言わなくて良いか。 「頭は?」  カシハラくんが不安そうに聞いている。 「いきなり触ろうとしなければ、個人的には問題ないかと」 「それじゃあ、失礼します」  なにを? わたしが首を傾げるのと同時にカシハラくんが頭の上に右手をのせてきた。 「アイアンクロー」 「オツノさんの頭を握りつぶすつもりはないから安心して」  今のところは。そうカシハラくんがつぶやいたように聞こえたのは、わたしの気のせいだと思う。 「悪いけど、少し待っててくれる。この船でしか手に入らない本があるからさ」  三階のレストランから図書室にくるまでの途中で今回のパーティに参加した目的がそれだとか言っていたっけ。  本のタイトルは忘れてしまったが、なにかの手記のようなものとかなんとか。 「えっと、ごゆっくり。わたしもミステリー小説をあさるので」  確か、カシハラくんの情報だと絶版された本も特別なルートから仕入れているみたいだからな。お金もカミシロさんがだしてくれるんだし、お言葉に甘えておごってもらおう。  カシハラくんと別れ、わたしはミステリー小説が並んでいる棚のほうに移動していく。  なん冊か面白そうなミステリー小説を見つけて、なんとなく他の棚を見ていると。  なにも書かれてない真っ白な背表紙の本を見つけた。  鳥肌が立っているのか身体が震えている。ほしかった、と言うものではないけど本当に実在したものだったとは。  それでも、わたしは興奮をしていたようで自分の意思とは関係なくジャンプしていた。  棚から真っ白な本を抜き取って、表紙や裏表紙も同じようになにも書かれてないことを確認。 「へへっ」  わたしらしくもなく、思わずにやけていると。 「オツノさん、どうかしたの?」  苦笑いを浮かべているカシハラくんが話しかけてきた。 「あの、あのですね。ほ、本がですね」 「あー、うん。落ち着いてからで良いよ」  オツノさんでもそんな風になっちゃうことがあるんだ。とでも言いたそうな視線を向けているカシハラくん。  言われた通りに、わたしはゆっくり深呼吸をしていく。先ほどより落ち着いたとは思うが、心臓の動きはまだまだはやかった。 「この白い本。あのオリジナルのレコードの日記、なんですよ」  普段よりも高い、わたしのテンションとは裏腹に。カシハラくんは、この日記のことを知らないようで首を傾げている。 「レコードって、あの殺人鬼の?」 「そうです。細かいことは省きますが、そのレコードはですね。自分が殺した相手の人生を追体験することができたんですよ」
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加