ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 中編

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 人間は死ぬ瞬間、これまでの人生を走馬灯のように思いだすらしいけど。それを殺人鬼のレコードは相手を殺した後に体験することができたとか。  その走馬灯の追体験をまとめた本が。今、わたしがもっているもので。しかも、この本は世界で一冊しかない。つまり、オリジナルでレコード本人が書いた珍しい品であることを説明したのだが。 「オツノさんが読みたかった本なんだね」  一言でまとめられてしまった。  別に良いや。あんまり理解をされない趣味なのは、分かっているし。  それにしても、ぐうぜんだとは思うけど。こんなところでレコードの日記なんてレアなものがあるなんて。 「そんなに興奮しちゃうのなら、すぐにでも読みたいんじゃないの?」 「できることなら」  そう答えつつ小さく首を縦に振っていた。 「それなら今日のデートはここまでかな」 「デートかどうかはさておき。カシハラくんとの約束のほうが先だったんですし、そちらにつき合うのが」 「うれしい言葉だけど、楽しみを横取りするようなことはしないようにしているんだ」  どんなことにしてもクリーンさは大切だよね。と、カシハラくんが続けている。 「そうですね。えっと、デートみたいで楽しかったです。それでは、また夕食の時に」 「うん。また夕食の時に」  カシハラくんに頭を下げ、レコードの日記と数冊のミステリー小説の支払いをするためにカウンターのほうに向かった。  レコードの日記が、わたしの想定していた値段の十分の一くらいだったけど気にしないでおこう。  そう言えば、カシハラくんのほうは探していた手記かなにかは見つかったんだろうか?  もしかしたら、カシハラくんもレコードの日記を。 「そんな運命の赤い糸みたいなことは起こらないか。だって、この世界は」  それに、あのカミシロさんがからんでいるんだからな。  自分の部屋でレコードの日記を読んでいただけなのに、知らない間に窓から茜色の光が射しこんできていた。  お腹は空いてないので、ご飯を食べる必要はないのだが。夕食の後でゲームをするから必ずホールにいかなければならないんだったな。  昨日みたいな推理ゲームじゃないと良い。  こんこん。  ホールのほうにいこうとすると、ノックの音が聞こえてきた。ミオンさんが迎えにでもきてくれたのかな。 「お、いたいた。約束していたものをもってきたぞ」  部屋の扉を開けるとミヤシロさんが立っていた。右手には黒い箱のようなものをもっていて。 「あ。ダンディシガーですね」  台詞と表情がかみ合ってねーな、そう言いながらミヤシロさんが肩を揺らしている。 「そんなにうれしそうな声をだすなら、思い切り笑えば良いのに」 「歯を見せて笑わないように教えられたのでその影響ですかね」 「なんだ虫歯があるのか。だったら、お菓子は食べないほうが」 「そんなのないです」
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