ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 前編

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 どうやら同じ講義を受けているらしい。  それでヒマつぶしにわたしに声をかけて。カシハラくんがポケットからスマートフォンを取りだした。 「電話番号、教えて。オツノさんだけ、まだ交換してなかったよね」  なんの話ですか? と、わたし的には表情にだしてないつもりだったが。 「この前の合コンのことだよ。また忘れちゃってた?」  合コン? 確か、少し前にミオンさんに頼まれて、一緒に参加をしたような。その時にスマートフォンを忘れたふりをしたんだっけな? 「オツノさん。さっきスマートフォンをいじってたよね」  カシハラくんが女の子みたいに可愛い笑みを見せてくれている。わたしもなんとか笑顔をつくってみたけど、普段使っていないからか、けいれんしてしまった。  断る理由もないので、カシハラくんと電話番号を交換することに。本当のわたしの連絡先ではない数字の羅列だったりするけど。  なにか不穏なものを感じ取ったのか、同じような手口でだまされたことがあるのか。  わたしが口にした適当な数字の羅列をカシハラくんがスマートフォンに入力している。 「オツノさんは悪戯が好きなんだね」  うそがばれてしまい、カシハラくんにたしなめられた。二回も同じことはできないので本当のわたしの連絡先を。  わたしのスマートフォンの液晶画面にカシハラくんの電話番号が表示されているのを確認すると、あの人懐っこそうな笑顔を見せてくれていた。 「そうだ。オツノさんはお昼、食べた?」 「まだですね」 「一緒に食べよっか」  一般的には、ただのお誘いなんだろうが。うそをついて、なおかつ見抜かれてしまったわたしに拒否をする権利はなかった。  でも、昼食はおごってくれるらしい。  リンソウ大学にある図書室から食堂に、わたしとカシハラくんは移動していく。昼食の時間から、かなりすぎているからか貸し切り状態だった。  カウンターの向こうにいるおばちゃんからカシハラくんが注文してくれた品を受け。 「どうかした?」  わたしが目の前にある料理を見つめたままでかたまっているので、隣に立っているカシハラくんが声をかけている。 「もしかすると、カシハラくんって特上なんですか?」  おごってもらった昼食と隣のカシハラくんを交互に見ながら口を動かしていた。 「そうだよ」  なんてことなさそうに答えているカシハラくん。リンソウ大学には財閥系の生徒が多いので。そんな類いの人達を生徒間では特上と呼んでいた。
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