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「しかし、人間ってのは不思議なものだな。心臓が動いている間は、半身が骨になっても生きていられるなんて」
エプロン姿の人間は、かっぷくの良い男性の前に立ったままで全く動かない。
「あんたも知らなかっただろう? 脳が半分になっても心臓が動いていれば人間が生きていられるなんて」
不思議なことに、エプロン姿の人間が握りしめているナイフの刃先から垂れている血さえも、空中でとまっているように。
「おいおい、あんたのつくった作品だろ? 見とれてしまうのは分かるが、会話くらいはしてくれよな」
なあ、聞こえているんだろう?
やめてくれよ。あんたが反応してくれないと。まるで、もう死んでしまっているみたいじゃないか。
あんたの使った薬で、多少まひしているのは認めるが。それでも、まだ死んでいない。
人間は、新しい知識を得たんだよ。
身体の半分が骨になっても、心臓が動いていれば生きることができるんだ。
頼むよ。少しだけで良いんだ、会話を。
確か、レコードだったかな。殺した相手の人生を追体験できたんだったな。
作品となってしまったかっぷくの良い男性の前に立っているエプロン姿の人間が思いだしたように語っている。
「レコード。誰のことかしら?」
エプロン姿の人間の隣に立っている女性が首を傾げていた。
こちらでは、それなりに名前の知れ渡っている殺人鬼のニックネームみたいなものさ。そいつの超能力とでも言うのか、殺した相手の人生を追体験できるって話があってね。
なんとなく、そのことを思いだしていたんだ。と、エプロン姿の人間が説明している。
「知り合いだったの?」
まさか、大昔とまでは言わないが。生きていたら、それなりの老後を送っているはずだからな。
「殺人鬼も老後の心配をするのね」
その殺人鬼の隣に立っているような女性に言われたくはないと思うがな。
「それもそうね」
エプロン姿の人間の冗談に適当に答えつつ女性はぶら下がっているかっぷくの良い男性を見つめている。
それよりも、今回のパーティのメンバーは粒がそろっているね。特に、死んだ魚みたいな目をしている、あの。
「言ったはずよ。その子だけは例外だと」
エプロン姿の人間の言葉を遮るように女性は声を荒らげ、にらみつけていた。
それは分かっているよ。けど、人間の思いってものは変わりやすいところもあるから、もしもの場合を聞いておこうかと。
なにが起こるか分からないからね。そう、エプロン姿の人間が笑っている。
「そんなことが、ある訳がないとは思いたいけど。その時は隣にいる殺人鬼さんの好きにさせるでしょうね」
ところで気のせいかしら? このかっぷくの良い死体、動いているように見えて。
そんな女性の台詞を聞くと、エプロン姿の人間は。
心臓はえぐりだしてないから、本人はまだ生きているつもりなんじゃない。
楽しそうに、そう言っていた。
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