ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 後編

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「確か、六日目のはずだが。ホームシックにでもなってきているのか? 後二日ほどで、帰ることができるのに」 「いえ。そろそろおわりだな、と思って」  それにどちらかと言うと、家にいるだろう兄さんのほうがホームシックみたいになっていると。 「名残惜しいのか?」  普通ならば、その質問はクルーズに対するものなのだとは思うが。わたしの性格が悪いからか、ツチウラくんがその言葉を口にしているせいか、全く違う意味に聞こえた。 「名残惜しいと、思いますね。罰ゲームとは言え、ツチウラくんみたいに趣味の合う人と一緒の部屋ですごせなくなるのは」 「本当か?」 「本当ですよ。わたしは今まで一回もうそをついたことがありませんからね」 「そうか。それなら、たまには一緒に朝ご飯でも食べにいかないか?」  おれと一緒にすごすことができなくなるのが名残惜しくなってきているんだろう? とわたしに断られないように念押しをしているツチウラくん。 「わたしは良いですけど。ツチウラくんは、これから眠らないといけないのでは」 「そうも言ってられなくなってきている可能性もあるからな」  マイルールまでは破らないとは思うけど。ツチウラくんが小さな独り言を口にしていたのか、唇が動いていた。  普通の服に着替え、わたしはツチウラくんと一緒に部屋をでていく。閉じかけている扉を見て、なんとなく。 「そう言えば、この船の部屋ってどれも基本的に同じような感じですよね」 「そう聞かれてもな。おれは他のメンバーの部屋にいってないからな」 「わたしの部屋にいきます? ご主人さま」 「なにかのゲームで誰かさんが本気で勝負をしてくれるのなら、部屋にいっても良いかもしれないな」  冗談まじりにツチウラくんがそんなことを言っている。わたしが口にするであろう台詞を、分かっているつもりなのか歩きだそうとしていた。 「心配しなくても近いうちに。ツチウラくんのその願いごとはかなうと思いますよ」 「うそは」 「ご主人さまに、うそはつきませんよ」  はっきり、わたしがそう言うと。ツチウラくんが足をとめ、こちらに目を向けている。 「そうか。それは楽しみだな」  再び歩きだしたツチウラくんのほうに近づいて、わたしは彼の右手を握りしめていた。 「心配しなくても、まだ時間はある」 「そうですね。ご主人さま」  手を握られることは、いやではないようでツチウラくんは普段の目つきの悪い顔のままで。  わたしのお腹から、音が響いていく。 「なにか、聞こえましたか?」 「いや。おれは耳が悪いからな」  失敗した福笑いみたいな表情になっているツチウラくんがわたしと目を合わせないように顔を逸らしていた。
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