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デートをしているんだったら今回は諦めるけどね。と、カシハラくんが笑っている。
「わたしは、かまわないですが」
そもそも、男女が手をつないでいるだけでカップルやデートと考えるのは、普通のことなのか。小学生ならともかく。
「召し使いが、こう言っているからな。おれも平気ってことで、それに」
タイミングが良いのか悪いのか、わたしのお腹がはやく朝ご飯を食べさせろや、とでも言っているかのように大きく鳴っている。
「それに、はやくいかないと美味しい料理がなくなってしまうかもしれないからな」
なにごともなかったかのように、ツチウラくんがそう続けていた。
数日前にいった、三階の別のレストランで朝食をおえてから、わたしとツチウラくんとカシハラくんは話をしていた。
コーヒーを飲んだり、クッキーを食べたりしながら、殺人鬼や人が殺されることを会話しているのは、どこか。
「レコードに限らないことだが。殺人鬼にはそれぞれ、ルールみたいなものがあるみたいだな」
殺人ってルールを破っている連中がそんな考えかたをしているのはなんとも皮肉っぽいがな。そう、隣に座っているツチウラくんが続けている。
「マイルール、ってところか。そのレコードだと他人の人生を追体験したいがために殺人をしていた、みたいにか?」
「ああ。趣味だったり、信念だったり、考えかただったりな。逆に言えば、そのルールを破らなければ殺されたりしないってことだ」
「お眼鏡にかなう、って感じですね」
わたしがそう言うと、向かいに座っているカシハラくんが声を上げて笑いだした。
「それじゃあ、殺されたいみたいな言いかたになっちゃうよ」
「そうですね。でも、そうやって殺されたい人間もいるらしいですよ」
「自殺志願?」
真剣な顔つきになっているカシハラくんがそう唇を動かしている。
「そんな人もいるとは思いますが。基本的には、その殺人鬼に殺されたいってファンですかね」
「まるでアイドルかなにかだな」
「ツチウラくんの言う通りですね。殺人鬼に魅入られるって感じなのか、訳の分からない病気なんかで死ぬくらいなら、みたいな考えかたでして」
オツノさんはそんな考えかたを理解できるタイプなの? とカシハラくんがこちらの目を真っすぐに見ながら聞いてきた。
わたしの気のせいかもしれないけど。カミシロさんの近くにいた、紳士服の男性と同じどす黒い瞳をしているような。
「考えかたは理解できますかね。どうせ最後は死ぬんだから自分の一番好きな人に殺してもらいたいと願うのは人情だと思いますよ」
「きれいな考えかただ。ツチウラもそう思うだろう?」
「きれいかどうかはともかく死にかたくらいは自分で選びたいってのは分かるな」
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