6人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうですね、ご主人さま。えと、それでは夕食の時にでも、また」
わたしも椅子から立ち上がりながら、カシハラくんに軽く頭を下げた。
「うん。また夕食の時にね、オツノさん」
女の子みたいに人懐っこい笑顔でカシハラくんは、わたしとツチウラくんに手を振っている。
わたしとツチウラくんが、レストランからでるのとほとんど同時に。誰かから電話でもかかってきたのか、カシハラくんがスマートフォンを耳にあてがっていた。
レストランをでて、食後の運動がてらツチウラくんと手をつないだ状態で、その辺りを歩いていると。階段を上がってきているカミシロさんが見えた。
カミシロさんのほうも、こちらに気づいたようで大きく目を見開いている。
「おはようございます。カミシロさん」
「あ、ええ。おはようございます」
なにかに驚いているのか、カミシロさんが声を震わせながら挨拶を返してくれていた。
ツチウラくんのほうにも、声をかけながら軽く頭を下げているカミシロさん。
けど、わたしの時とは違って、顔をにらみ上げているような気がした。
「カミシロさんも、朝食を?」
「いえ。少し面倒なことが起こったとかで、そちらのほうへ」
ですが、カナデさんやツチウラさんが心配をするようなことではないので引き続きパーティを楽しんでもらえれば。
とは言っているが、明らかに動揺しているのが分かるくらいに、カミシロさんの身体が小刻みに揺れている。
「そうなんですか。大変ですね」
身体を震わせるくらいに大変だったとしても、わたしやツチウラくんが関わるべきではないか。面子やプライドみたいなものもあるだろうしな。
ツチウラくんもその辺を分かっているようでわたしとカミシロさんの話に入ってこようとしてない。
「そちらはさておき。カナデさんもご健在のようで、そんなつもりはさらさらないなどと言っておきながらパーティを楽しんでくれているんですね」
「そうですね。朝食、美味しかったです」
わたしが真面目に、そう言うと。
「明らかにそうじゃないだろう」
ツチウラくんがあらぬところに視線を向けつつ、小声でなにかを口にしていた。
「ご主人さま、なにか言いましたか?」
ツチウラくんの顔を見上げ、唇をそんな風に動かすと、一瞬だけだが時間をとめることができた気がした。
「いや。なにも言ってないな、オツノさんの空耳じゃないか」
「どうかしましたか? 召し使い、と先ほどは呼んでくれていたはずでは」
そう呼ばれて、それなりにうれしかったんですよ。と、わたしが続けると。
からかっていることがばれてしまったようで、ツチウラくんがため息をついている。
「そうだったな。ま、召し使いさんが本当にそう思ってくれているのなら、おれのためにも言葉を慎むべきじゃないか?」
「そうかもしれませんね。けど、召し使いの可愛い悪戯、ご主人さまなら笑って聞きながしてくれるでしょう」
「ものは言いようだな」
最初のコメントを投稿しよう!