6人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしとツチウラくんのやり取りみたいなものを見ていて、なにか思うことでもあったのか。
「まるで中学生ね」
カミシロさんがせせら笑うように赤い唇を動かしている。
「お互いに童顔ですから。中学生カップルに見えなくもないですかね」
ツチウラくんがわたしに視線を向けているような気がするが勘違いだろうな。
「そうじゃなくて、わたくしは」
なにかの言い訳をする時みたいな顔つきをしているカミシロさん。子どもがつい悪口を言ってしまい、反省しているようにも見えていた。
少しすると、カミシロさんはうつむき。
「それは、そんな関係ってこと?」
わたしとツチウラくんが、仲良しカップルだと判断したであろう部分を指差している。
「見ての通りですね」
ツチウラくんと握り合っている手を、胸の辺りまで上げていく。今さら、きんちょうをしているのか冷や汗をかいているような。
「そう。良かったわね」
なんて、祝福の言葉を口にしてくれているが。相変わらず、うつむいたままなのでカミシロさんがどんな表情をしているのかは分からない。
「はい。友達のカミシロさんのおかげです」
空耳だとは思うが、誰かのとても大切な線のようなものが、ぶち切れた音がした。
「ふっ。カナデさんにお礼を言われるようなことをした覚えはないわ。その縁は、あなたが自力で手に入れたものなんですから」
なんだか疲れたわね。そう言っているカミシロさんがふらつきながらわたしとツチウラくんの間を通り抜けていく。
握り合っている手がカミシロさんに当たらないようにしたのでボクシングの審判が勝者の手を上げる時と同じようなポーズになってしまった。
「ごめんなさい。身体がふらついていて」
「トラブルがあるとか言ってましたよね? 良かったら、手伝いましょうか?」
「ありがとう。カナデさんのその言葉だけで充分よ。それにカップルの邪魔をしたら殺人鬼に目をつけられるかもしれませんから」
多分、カップルだけを殺すことで名の知れ渡っているカラールの話かな。わたしの想像よりもえげつない趣味をもって。
「それでは、また夕食の時にでも」
「あ。はい」
変な考えごとをしているうちに、カミシロさんは回復をしたようで、すでにその背中はかなり小さくなっていた。
「良かったのか?」
カミシロさんの後ろ姿が見えなくなったのを確認してから、ツチウラくんがそんなことを聞いてきた。
「本人が手伝われたくなさそうでしたから、やいのやいの言う必要もないかと」
「そっちじゃなくて」
「どっちにしても、時間の問題でしたよ」
言葉足らずなので、ツチウラくんに上手く伝わったかどうかは分からなかったが。
「良い意味で受け取っておくよ」
ご主人さまに、そう言われてしまった。
その可能性までは考えてなかったな。
最初のコメントを投稿しよう!