ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 後編

11/25
前へ
/110ページ
次へ
「独占したがる男はきらわれるよ」 「他人の秘密をばらす女性よりは、可愛げがあると思いますけどね」  ミオンさんとツチウラくんが船で話をしているところを見たのは、はじめてだが。 「ミオンさんと知り合いだったんですね?」  わたしの右隣に座ろうとしているツチウラくんのほうに顔を向けながら、そんなことを口にしていた。 「一応だけどな。先輩には、中学の時に色々とお世話になっていたんだ」 「いやそうな顔で言わないでほしいね」  ミオンさんが唇をとがらせている。 「それじゃあ、ツチウラくんはミヤシロさんとも知り合いで?」 「まあ、そうだな。本人と会ったのはこの船がはじめてだけど。当時から、先輩から話は聞いていたな」 「へー」  照れ隠しのつもりなのか、ミオンさんが箸で挟んだ春巻きをわたしの口に運んでくれていた。 「ツチウラ。変なことを言うなよ」 「お互いさまですよ。先輩が変なことを言わなければ、おれも」 「あの時の黒髪の中学生。ツチウラくんだったんですね」  髪が真っ白になっていたので今まで気づかなかったが。言われてみれば、確かに目つきが悪かった記憶はある。  でも。 「あの時のツチウラくんを助けた覚えがないような? 確か、どこかの駄菓子屋で雑談をしただけかと」  ツチウラくんの顔をのぞきこみつつ、そう聞いてみると。 「なんのことだ? おれとオツノさんはこの船ではじめて会ったんだ。その駄菓子屋で話をしたって黒髪の中学生とは全くの別人だと思うがな」  とても冷静に、その時の黒髪の中学生ではないと否定されてしまった。 「そうなんですね。ごめんなさい」  ここで、ツチウラくんがそんなうそをつく理由もないだろうし。それに、そんなに興味のある話でもないからな。 「謝る必要はないだろう。おれの顔を見て、その時のことを思いだしただけなんだから」  それに、そもそも勘違いしていたのは先輩のほうなんだよ。その話、実はおれの友達のことでな。と、ツチウラくんが続けている。 「類は友を呼ぶんですね」 「真面目に聞いてくれないか」  この上なく真面目に聞いていたのに、意外と他人の思いは伝わらないものなんだろう。  類は友を呼ぶんですね。が、ミオンさんのつぼを刺激したらしく、お腹を抱えるように笑っている。そんな姿を見たからかツチウラくんは息をはきだしていた。 「まあ、パーティに相応しくない話でもあるからな。これで良かったのかもしれないな」  なにやら独り言を口にすると、隣に座っているツチウラくんがわたしのほうに視線を。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加