ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 前編

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「えっと、帰り道が同じなんですか?」  が、カナデの一言で。ぴりついていた教室の空気が一瞬で和らいだ。男子生徒に向けていた視線の主達から笑い声のようなものが。 「あの、どこか痛いんですか?」  涙ぐんでいる目の前の男子生徒に対して、カナデは不思議そうに首を傾げている。 「ごめん。やっぱり、今のなしで」  そう言うと、男子生徒は廊下を走り抜け、どこかにいってしまった。教室から顔だけをだして、なんとなくカナデはその背中を見つめていたが。 「ま、いっか」  男子生徒のことを気にした素振りもなく、カナデは教室をでて。下駄箱のあるほうへと歩いてると。 「カナデさん」  先ほどよりも親しげに呼ばれたからか、カナデは後ろを振り向いた。両目の下に黒子が描かれてる女子生徒と制服を改ぞうしているっぽい生徒が並んでいた。 「カミシロさん」  カナデなりに苦々しそうに、目の前の女子生徒の名前をつぶやきながらも。この感情は伝わってないだろうな、と密かに。 「今日も、違う男の子と一緒なんですね」  カナデからすれば思ったことを言っただけなのだろうが。 「ええ。カナデさんほどではありませんが」  カミシロマヤにとっては悪く聞こえたようで、皮肉っぽく返している。 「先ほども、告白を断ったみたいで?」 「いえ。あの男の子は、わたしと一緒に帰りたくなくなっただけですよ」 「あのていどの男は眼中にないと?」  カナデの言葉が聞こえてないかのように、マヤは自分の意見を押し通してきた。 「振られたのは、わたしのほうですよ?」 「振らせたの間違いでは」  そう言いながら、マヤは楽しそうに笑みを浮かべ。  またなのか、とでも言いたそうにカナデは大きく息をはきだしている。 「カミシロさんはわたしを女狐にしたいそうですが、違いますよ」 「そうですね。女狐はわたくしのほう」  つぶやくように艶やかな唇を動かすと、マヤは隣に立っている生徒とキスをした。舌をからめ、ひわいな音を響かせていく。  そんな光景を見たくないためか、カナデは顔を逸らして目をつぶっている。 「ふふっ。意外と、うぶなんですね」  マヤの声が聞こえ、先ほどの光景が見えなくなったことを確認するようにカナデが目を薄く開いていく。 「学校ですよ」  カナデは横目で二人のほうに視線を向けていたが。マヤが自分の唇をなめているのが見えたせいか、顔をゆがめていた。
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